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【法人向け|LED照明 #3】 水銀灯をLEDにして、何が変わるのか|明るさ・電気代・作業環境を徹底比較

投稿日:2025年11月25日
更新日:2025年11月26日

工場や倉庫、体育館などの高天井空間やグラウンドなどの屋外で、長年にわたり主照明として使われてきた「水銀灯」。

水銀灯は高出力で広い範囲を照らせる一方で、「電気代が高い」「点灯が遅い」「メンテナンスが大変」といった課題も抱えていました。また、水銀灯は高温になりやすく、破損時にはガラス片の落下や水銀の飛散といった安全面・環境面でのリスクも指摘されています。

こうした背景から、近年では高天井用LED照明への更新が急速に進んでいます。

最新の高天井用LEDは、水銀灯と同等以上の明るさを保ちながら消費電力を大幅に削減し、即時点灯と長寿命化によってメンテナンスも減らせます。その結果、電気代の削減だけでなく、作業環境の快適性や安全性の向上にもつながります。

本記事は、企業の照明環境改善を段階的に解説する連載シリーズ「法人向け|LED照明」の第3回です。水銀灯が選ばれてきた背景と課題を整理しながら、LED化で期待できる「省エネ・環境・快適性」の3つの改善を具体的に解説します。

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要約

水銀灯の長所と課題:
水銀灯は高出力で広範囲を均一に照らせ、厳しい環境でも使用できる信頼性が特徴です。一方で、消費電力の大きさや点灯の遅れ、メンテナンス負荷の高さなど運用面での課題が顕著でした。また発熱や水銀使用による安全・環境リスクもあり、特に高天井の多い倉庫や工場ではコスト・作業性・安全性の面で改善ニーズが高まっていました。

LED化による省エネ効果:
LED更新により同等の明るさを保ちながら40〜70%の省エネが可能となり、瞬時点灯・センサー制御と組み合わせて、部分点灯や調光による運用最適化が行えます。さらに高所でのランプ交換では保守回数・停止時間が大幅に減り、電気代と保全費の両面でランニングコストの削減が実現します。

環境改善と安全向上:
LEDは水銀を含まず環境負荷が低い上、使用電力削減によりCO₂排出量も削減できます。即時点灯の特性から非常時の対応力が高まり、BCP対策の観点でも有利です。また配光設計の自由度が高く、演色性の改善やちらつき低減による作業品質の向上、低温環境でも安定点灯して空調負荷の軽減にも寄与します。

現場に応じた施工・器具選定:
工場・倉庫・低温エリアなど用途に応じて、温度条件・防湿性・均斉度・眩しさ対策など器具選定が変わり、仕上がりの品質に直結します。施工プロセスは共通しつつ、高天井空間や機械密集エリアでは作業スペース確保が工期を左右します。

水銀灯が使われてきた理由と課題

水銀灯が長年にわたり工場や倉庫で使用されてきたのは、高出力で信頼性の高い照明として多くの現場ニーズを満たしていたためです。その主な理由を整理すると、以下の4点です。

  • 高出力で高天井に強い:10m以上の高天井でも十分な照度を確保でき、広範囲を均一に照らすことが可能。
  • 配光の取り回しがしやすい:反射笠と組み合わせることで、倉庫の通路・棚間など目的に合わせた配光設計が可能。
  • 耐環境性と実績:粉じん・暑熱など厳しい環境下でも使われてきた実績があり、現場での信頼が高い。
  • 初期導入が容易:既設設備・既設電源で使える器具が多く、当時は調達性の高さも評価されていた。

一方で、運用を続けると次のような課題が目立つようになります。

  • 電力消費が大きい:一般的に同等明るさのLEDと比べると消費電力が高く、台数が多い現場ほど電気料金への影響が大きい。
  • 点灯・再点灯に時間がかかる:立上がりや再点灯に数分を要するため、こまめな点消灯やデマンド制御がしづらい。
  • メンテ負荷・停止損失:ランプ交換・安定器劣化への対応が必要で、高所作業車の手配や生産ラインの停止など、工数・機会損失が発生する。
  • 光の質の課題:演色性が低く、色の見分けがしづらい場合がある。ちらつき感や照度ムラによって作業品質・安全性へ影響を及ぼす可能性がある。
  • 発熱・環境負荷:器具の発熱が大きく、空調負荷に影響する場合がある。廃棄時の取り扱いにも配慮が必要。

LED化で得られる3つの改善効果(省エネ・環境・快適性)

① 省エネ・コスト削減(電気代+保全費)

水銀灯からLEDに更新すると、まずエネルギー運用の考え方が根本から変わります。高効率な光源により同等の明るさでも消費電力を大きく抑えられ、一般に40〜70%の削減が期待できます。さらに、器具選定とレイアウトの最適化によって削減効果をより高めることが可能です。

LED照明は瞬時点灯が可能なため、人感・スケジュール・明るさセンサーといった制御と相性が良く、ゾーン単位での部分点灯や調光を日常運用に取り入れることができます。

また電気代だけでなく高所保守の回数や停止時間も減らすことが可能になり、ランニングコスト全体の最適化が進みます。

② 環境・サステナビリティ(CO₂・廃棄物・法対応)

使用電力量の削減はそのままCO₂排出量の低減につながり、ESG経営やカーボンニュートラル推進に寄与します。また、LEDは水銀を含まないため、廃棄物管理や処理にかかる負担やリスクが軽くなる点も見逃せません。

加えて、計画停電や節電要請といった非常時にも、LEDであれば即時消灯・即時再点灯が可能です。BCP(事業継続計画)の観点でも、柔軟に明るさを落とす・エリアを限定して点灯するなど、運用の選択肢が広がります。

③ 快適性・安全性(明るさ・見え方・作業性)

LEDは配光バリエーションが豊富で、通路・作業帯・棚面を狙った均斉度の高い設計が可能です。暗がりや影の発生を抑えることで、つまずきや誤作業といったリスクを減らせます。

また演色性の面でも、Ra80以上が一般的になり、ラベルの判読や検査工程で色の見分けがしやすくなりました。適切な電源回路と光学設計を選ぶことで、ちらつきやグレア(眩しさ)も抑えられ、目の疲労感が軽減されます。

Ra(演色評価数)とは?
照明の光が「色をどれだけ自然に見せるか」を示す指標。値は100に近いほど太陽光に近く、色の再現性が高いことを意味する。

低温倉庫でも即時・安定点灯し、器具発熱が少ないため空調負荷の抑制にも寄与します。電子化によりノイズが出にくいことも、静粛性が求められる工程では小さくないメリットです。

上記の改善点を踏まえると、LED化は単なる“明るさの置き換え”ではなく、現場の動線や稼働パターンに合わせて「必要な場所へ、必要なタイミングに、必要な光量だけ」を届けるための “エネルギー設計そのもの”です。

省エネ・環境・快適性の三方向で効果が重なり、結果として生産性と安全性を底上げする。それが水銀灯からLEDへ移行する本質的な価値といえます。

水銀灯とLEDの違い|施設用途別でのLED器具「選定ポイント

解説者

高橋 宏武
一級電気施工管理技士/第一種電気工事士

高橋 宏武

大学卒業後、恒電社に入社したプロパー社員。電気工事士として、住宅の電気工事に加え、法人向けの高圧電気設備工事の直接提案を開始するなど、現在の会社の礎を創ってきたメンバー。2020年からは事業部長として、エンジニアリング事業部を統括している。プロフィールはこちら

インタビュアー

岩見 啓明
第二種電気工事士/二等無人航空機操縦士

岩見 啓明

前職はWebメディアの編集者。恒電社に参画後はマーケティングに従事し、現在は採用全般も担当している。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローン)資格、2024年に第二種電気工事士資格を取得。プロフィールはこちら

水銀灯とLEDの違い

ーーー水銀灯からLEDに変えることで得られるメリットを教えていただけますか?

照明設備のLED化には「省エネ」や「環境対策」など様々なメリットがありますが、水銀灯との大きな違いとしては「再点灯が容易」ということが挙げられます。

水銀灯は一度消したら、再び明るくなるまで5〜10分ほどかかります。例えば工場や商業施設の休憩室など、何度も照明を入り切りする場所では、大きな変化を感じていただけるかと思います。

また「落雷被害にも強い(復旧速度が速い)」ことも、水銀灯と比べたLEDの強みだと言えます。

落雷や送電線の事故などにより、電圧が一瞬だけ低下・遮断される瞬間停電(瞬停)が発生することがあります。瞬停は数ミリ秒〜数百ミリ秒程度の極めて短い現象ですが、工場・倉庫・体育館など「高天井照明」を使用している施設では、その影響が大きく異なります。

オフィスや休憩室なら5〜10分待てば済む話かもしれませんが、工場の場合ラインが止まる、倉庫ではフォークリフトが動けない、体育館では競技が再開できないなど、業務や運用に直接的な支障が生じます。

ーーー水銀灯からLEDへの設備更新はメリットばかりに思えます。デメリットはないのでしょうか?

実際メリットばかりだと思います。その一方で、どうしても初期投資費用はかかるので、挙げるとしたら費用の点でしょうか。

LEDの代替案としては「メタルハライドランプ」の存在があります。水銀とハロゲン化金属(メタルハライド)を利用した照明器具で、「セラメタ(セラミックメタルハライドランプの略)」とも呼ばれます。

これらは水銀灯の設備をそのまま利用して使えるうえに、製造禁止のスコープには入っていません。ランプ自体は水銀灯より少々高価で、使い勝手は水銀灯と変わらない(点灯に時間がかかるなど)ものですが、LED更新の代わりにこちらを導入する企業もいらっしゃいます。

施設用途による器具の選定方法・施工方法の違い

ーーー工場や倉庫など、施設によってLED照明の施工の方法は変わりますか?

施工方法は大きく変わりません。違いが出るのは器具の選定と工事における段取りです。

明るさ・配光・グレア(まぶしさ)・環境耐性(温度など)を用途によって、選定する器具や工程は全く異なるものになります。

ーーーでは、施設の用途別に器具選定で気を付けるポイントを教えてください。

はい。代表的な3パターン(工場・低温エリア・倉庫)で説明しますね。

工場:高熱・高温/眩しさへの対応・作業スペースの確保

工場の場合、まず確認したいのは天井付近の温度です。炉や溶接機のそばなど、下からの熱でかなり温度が上がることがあります。もし標準タイプのLEDでは厳しいようなら、高温対応(耐熱70℃程度)の器具を選んでおくのが安心です。

あと、意外と大事なのがグレア(眩しさ)。照明が直接目に入ると、作業者が疲れやすくなるので、反射や眩しさを抑えたタイプを選ぶと良いですね。

さらに、工場は機械がぎっしり並んでいることが多いので、真下の作業スペースをどう確保するかが工期短縮のポイントになります。事前の段取り次第で、作業効率が全然違ってきます。

低温エリア(冷凍・冷蔵設備内など):低温対応器具の選定

低温エリアは、名前の通り“寒さ”が最大のポイントです。普通の照明だと結露したり、明るさが安定しなかったりすることがあるため、必ず低温対応の器具を選びます。

高天井器具を使うほどの広さではないことが多いですが、温度変化に強く、防湿構造のしっかりしたタイプを選ぶと長持ちします。結露による光量の低下を防げるかどうかもチェックしたいですね。

倉庫:高天井・広範囲への適応性

倉庫では「高さ」と「広さ」によって選定する器具が変わってきます。天井が高いと、それだけ光をしっかり下まで届ける必要があります。この場合は、高天井用のLED器具と高所作業車の手配が必須になりますね。

また、単に明るければ良いわけではなく、ムラのなさと通路の見え方を重視します。見え方を整えることで安全性も上がりますし、フォークリフトを使用する際も運転しやすくなります。

さらに最近は、人感センサーや明るさセンサーを組み合わせて、ゾーンごとに自動で調光や点灯を切り替える省エネ運用も増えています。「使う場所だけ点ける」という考え方が、これからのスタンダードですね。

ーーー施工そのものは大きく変わらないとのことでしたが、共通する基本プロセスや気を付けていることはありますか?

どの現場でも共通で行うことは「ブレーカー遮断(分電盤から先の安全確保)」「仮設照明・仮設電源の用意」「養生→取り換え→絶縁測定→清掃」ですね。

これらの項目は作業員もお客さまも安全に、そして気持ち良く作業を行うために、当たり前に行うことです。

ーーー施設の用途や条件の違いで、工期に影響を与える項目はありますか?

高天井・機械の密集・昼間の停電不可などの条件で工期が変わることがあります。

特に工場や倉庫は機械や棚(荷物)が密集していることが多く、設備の直下スペースをどれだけ確保できるかで作業効率が大きく変わりますね。

施工事例|法人向け照明(LED)更新工事

まとめ

高天井環境で長く使われてきた水銀灯は、その高出力性能ゆえに多くの現場を支えてきました。しかし、電力コスト・メンテナンス負荷・安全性・環境対応といった課題が顕在化し、現代の工場・倉庫運営には必ずしも最適とは言えなくなっています。

一方、LED照明は省エネ・環境負荷低減・作業性向上の三つの側面で大きな改善効果をもたらし、「必要な場所に必要な明るさだけを届ける」という新しい照明設計を可能にします。施設の用途や条件に応じて適切な器具を選定し、最適なレイアウト・制御を組み合わせることで、コスト削減だけでなく安全性や生産性の向上にもつながります。

照明更新は単なる設備交換ではなく、現場全体の価値を底上げする投資です。水銀灯からLEDへの移行は、これからの省エネ対応・環境配慮・働きやすさを実現するうえで、確実に取り組むべきステップと言えるでしょう。まずはお気軽にご相談ください。

本記事は、連載シリーズ「法人向け|LED照明」の第3回として、水銀灯との比較を通じてLED化のメリットを整理しました。第4回では、2027年問題に向けた照明更新計画の立て方を紹介します。

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記事を書いた人

蕨川 真央
恒電社

蕨川 真央

教育・医療業界を経験したのち、結婚出産を経て恒電社に参画。現在は、マーケティングや採用領域のアシスタントとして従事する。プロフィールはこちら

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