【区分開閉器 #2】「PAS(高圧気中負荷開閉器)」とは?高圧受電における役割と種類|責任分界点・区分・SOGの考え方
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高圧受電設備において、最も重要なリスクの一つが「波及事故(自社設備のトラブルが原因で、周辺へ停電を及ぼす事故)」です。
前回の記事では、電力会社と需要家(自社)の責任範囲を分ける「責任分界点」について解説しました。この責任分界点において、事故の波及を防ぐための「最後の砦」として機能するのが、PAS(高圧気中負荷開閉器)です。
本記事では、架空配電方式におけるPASの役割、構造、SOG制御装置との関係、そして実務上の選定・運用ポイントについて解説します。
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目次
要約
PASの主な役割
PAS(高圧気中負荷開閉器)は、責任分界点に設置される区分開閉器で、事故発生時に自社設備と電力系統を切り離す役割を担います。系統分離・波及事故防止・保守時の安全確保を行う“最後の砦”として、キュービクルの安全運用に欠かせない重要機器です。
SOGと方向性機能
PASは単体ではなくSOG制御装置と連携し、過電流や地絡を検知して自動遮断を行います。特に方向性機能の有無が重要で、方向性付きは自社設備内の事故のみを遮断し、不要な停電や復旧遅延を防ぐため、現在は主流となっています。
事故と運用実態
架空配電では落雷や小動物侵入、経年劣化による絶縁不良などが事故原因となります。PASがあれば停電は自社内で抑えられますが、故障時は電力会社との調整に時間がかかることもあり、日頃の点検と仕様把握が安定運用の鍵となります。
PASとは|責任分界点に設置される“区分開閉器”
PAS(Pole-mounted Air-break Switch)は、日本語で「高圧気中負荷開閉器」と呼ばれます。主に電柱(Pole)上に設置され、空気(Air)を絶縁媒体とする高圧用の区分開閉器です。
基本的な役割
PASは、事故発生時に電路を遮断し、自社設備と電力系統を切り離すための装置です。一般的には、責任分界点の需要家側(引込点直後)に設置され、以下の機能を担います。
- 系統の区分(系統の分離)
- 事故の切り分け(波及事故防止)
- 保守点検の安全確保
→詳しくはこちらで解説しています。
なぜPASが必要か|架空配電特有のリスク
電柱から電線を引き込む「架空配電方式」は、日本の高圧受電で広く採用されていますが、外的要因(自然環境・動物・飛来物)の影響を受けやすい特性があります。
- 落雷・台風などの自然災害
- 鳥獣の接触
- 樹木の接触や飛来物
これらにより、自社設備側で地絡や短絡が発生した場合、PASがなければ電力会社側の遮断機が動作し、広範囲の停電(波及事故)に発展する可能性があります。
PASはこのような事態を防ぐために、自社設備側で事故を遮断する役割を担います。
PASの構成|「開閉器」と「SOG」の組み合わせ
現在のPASは単体ではなく「SOG制御装置(保護継電器)」とセット運用されるのが標準です。
SOG制御装置の役割
SOGはPASに対して、開閉動作を指示する「制御・判断機能」を担います。主な検知機能は以下の通りです。
- SO(Storage Overcurrent): 過電流(短絡など)を検知
- G(Ground): 地絡(漏電)を検知
SOGが異常(過電流・地絡)を検知し、PASへ遮断指令を出すことで、事故回路を切り離します。この2つの組み合わせにより、自動遮断による事故防止が実現されています。
保護機能による分類(重要)
実務上、選定で重要になるのが「方向性」の有無です。
- 無方向型
- 地絡を検知すると一律で動作
- 所外事故(電力側の事故)でも開放する可能性あり
- 方向性型(主流)
- 地絡電流の方向から、事故が所内か所外かを判別
- 自社設備内の事故のみ遮断
なぜ方向性が重要か
無方向型の場合、近隣設備で事故が発生した際にもPASが開いてしまい、電力会社の再送電後も自社だけ復電しないという事象が発生することがあります。
一方で、方向性付きPASであれば、所外事故では動作せず、再送電時に自動復電が可能であり、不要な停電の回避と復旧性の向上につながります。
電気工事士に聞く、PASによる事故と復旧の実態
解説者
インタビュアー
ーーー近隣設備のトラブルが原因で自社が停電する「波及事故」の事例を聞いたことはありますか?
これまでの現場経験では、波及事故が問題になるケースはほとんどありません。これは現在ではPASの設置が一般的になり、事故の切り分けが適切に行われていることが大きいと思います。
では、PASを動作させる具体的な例としては、意外と多いのが小動物による地絡事故です(前の記事でも説明しています)。この場合、設備側にも焦げや損傷が発生し、機器交換が必要になるケースもあります。
ーーーPAS本体が原因となるトラブルもあるのでしょうか?
あります。最も多いのは、経年劣化による絶縁不良です。
PASは屋外に設置される設備なので、長期間使用していると防水・絶縁性能が低下し、内部に水が浸入することがあるんです。その結果、絶縁性能が落ちて、異常動作や事故につながるケースもあります。
ーーーPASに不具合が生じた場合、復旧までにどの程度時間がかかるのでしょうか?
交換作業自体は、条件が揃えば2〜3時間程度で完了することが多いです。
ただし、実際には「電力会社との調整」「停電計画の確保」「作業日程の確保」といった事前準備に時間がかかるケースがほとんどです。特に、高圧設備の工事は単独では完結しないため、系統側(電力会社)との調整は時間を要します。
緊急性が高いと判断された場合は優先的に対応されることもあり、1週間程度で工事ができたケースもありますが、通常はそれ以上の期間を見込む必要があります。
ーーー雷などの突発的な事故の場合でも同様でしょうか?
雷などの影響によるトラブルでは、当日中に対応してもらえたケースもあります。ただし、これはあくまで事故の状況や電力会社の状況にもよるため、必ず即日復旧できるとは限りません。
PASの機器選定について
ーーーPASの更新や新設時は、どのような基準で機器を選定していますか?
主に保護機能の条件で判断しますが、特に重要なのが「方向性の有無」です。
地絡事故が発生した際に、それが自社設備内(所内)で発生したものか、系統側やほかの施設(所外)で発生したものかを判別する機能ですね。
ーーー方向性がないと、どのような影響があるのですか?
無方向性の場合、近隣で事故が発生した際にもPASが動作してしまうことがあります。
その結果、電力会社が再送電しても自社設備だけ復電せず、現地で電気主任技術者によって手動復旧してもらう必要が出てきます。
一方、方向性機能があれば、所外の事故では動作しないため、電力会社の再送電時にそのまま復電できます。そのため現在では、方向性付きPASが標準的に採用されるケースが多いです。
施工事例
まとめ|PASは事故を外に出さないための重要な設備
PASは、単なる開閉器ではなく、キュービクルの入り口において、自社のトラブルが地域社会へ波及することを防ぐ「防波堤」のような役割を担っています。
その運用において重要なポイントは、「SOGと連携することで、自動遮断が成立すること」「方向性機能の有無が復旧に大きく影響すること」です。設備担当者として、自社のPASの仕様や、更新履歴、動作環境を把握しておくことは、リスク管理の第一歩となります。
次回の記事では、PASの地中版とも言える「UAS(UGS)」について、その役割とPASとの違いを詳しく解説します。
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