更新日:2026年10月3日
高圧受電設備において、最も重要なリスクの一つが「波及事故(自社設備のトラブルが原因で、周辺へ停電を及ぼす事故)」です。
前回の記事では、電力会社と需要家(自社)の責任範囲を分ける「責任分界点」について解説しました。この責任分界点において、事故の波及を防ぐための「最後の砦」として機能するのが、PAS(高圧気中負荷開閉器)です。
本記事では、架空配電方式におけるPASの役割、構造、SOG制御装置との関係、そして実務上の選定・運用ポイントについて解説します。
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要約
PASの主な役割
PAS(高圧気中負荷開閉器)は、責任分界点に設置される区分開閉器で、事故発生時に自社設備と電力系統を切り離す役割を担います。系統の分離・波及事故の抑制・保守時の需要家側の切り離しを担う“最後の砦”として、キュービクルの安全運用に欠かせない重要機器です。
SOGと方向性機能
PASは単体ではなくSOG制御装置と連携して動作します。地絡のときはPASを開放し、短絡のときは電力会社側の遮断器が動作して電気が来ていない状態になった後にPASを開放します。方向性付きは、構外で起きた地絡でPASが不要に開くことを抑えられるため、現在は主流となっています。
事故と運用実態
架空配電では落雷や小動物侵入、経年劣化による絶縁不良などが事故原因となります。PASは事故区間を切り離して、周辺への停電の広がりや長期化を抑えます。ただし、すべての波及事故や周辺の一時的な停電を防げるわけではありません。PAS自体の故障時は電力会社との調整に時間がかかることもあるため、日頃の点検と仕様の把握が安定運用の鍵となります。
PASとは|責任分界点に設置される“区分開閉器”
PAS(Pole Air Switch)は、日本語で「高圧気中負荷開閉器」と呼ばれます。主に電柱(Pole)上に設置され、空気(Air)を絶縁媒体とする高圧用の区分開閉器です。
「高圧気中開閉器」「気中開閉器」「区分開閉器」といった呼び方もありますが、これらはPAS以外にも使われる広い名称です。本記事では、責任分界点付近の電柱上に設置する気中負荷開閉器をPASと呼びます。キュービクルの中にある負荷開閉器(LBS)とは、設置場所や組み合わせる保護装置が異なります。
基本的な役割
PASは、事故発生時に自社設備と電力系統を切り離すための装置です。一般的には、責任分界点の需要家側(引込点直後)に設置され、以下の機能を担います。
- 系統の区分(系統の分離)
- 事故の切り分け(波及事故防止)
- 保守点検時に需要家側を電源から切り離す
→詳しくはこちらで解説しています。
※PASを開放しただけで作業の安全が確保されるわけではありません。実際の作業では、停電範囲の確認・検電・接地などの安全措置を別に行います。
なぜPASが必要か|架空配電特有のリスク
電柱から電線を引き込む「架空配電方式」は、日本の高圧受電で広く採用されていますが、外的要因(自然環境・動物・飛来物)の影響を受けやすい特性があります。
- 落雷・台風などの自然災害
- 鳥獣の接触
- 樹木の接触や飛来物
これらにより自社設備側で地絡や短絡が発生し、構内の保護装置で事故を切り離せないと、電力会社の変電所の遮断器が動作して、同じ配電線につながる周辺の建物まで停電する「波及事故」に発展するおそれがあります。
PASはこのような事態を防ぐために、自社設備を配電線から切り離す役割を担います。
PASの構成|「開閉器」と「SOG」の組み合わせ
現在のPASは単体ではなく「SOG制御装置(保護継電器)」とセット運用されるのが標準です。
SOG制御装置の役割
SOGは、地絡や過電流を検出し、PASの開放を制御する「保護・判断機能」を担います。主な検知機能は以下の通りです。
- SO(過電流蓄勢トリップ):短絡などの過電流を検知すると、PASを開かないようにいったんロックし、配電線が停電して電気が来ていない状態になってからPASを開放する
- G(地絡トリップ):地絡(漏電)が設定された動作条件を満たすと、整定時間に従ってPASを開放する
SOGは「Storage Over Current Ground」の略です。短絡のような大きな電流は、負荷開閉器であるPASでは切ることができません。そのため短絡のときは、電力会社側の遮断器が配電線を止めている間にPASを開いて自社設備を切り離し、その後の再送電で周辺の建物が復電できるようにしています。地絡のときは、短絡のように配電線の停電を待たず、SOGの指令でPASが開きます。
保護機能による分類(重要)
実務上、選定で重要になるのが「方向性」の有無です。
- 無方向型
- 設定値を超える地絡電流を検知すると、事故の場所にかかわらず動作
- 構外で起きた地絡でも開放する可能性あり
- 方向性型(主流)
- 零相電圧と零相電流の位相関係から、地絡が構内か構外かを判別
- 構内の地絡を選んで検出し、PASを開放(適切な整定と施工が前提)
なぜ方向性が重要か
無方向型の場合、近隣設備で事故が発生した際にもPASが開いてしまい、電力会社の再送電後も自社だけ復電しないという事象が発生することがあります。
一方で、方向性付きPASであれば、構外の地絡でPASが不要に開くことを抑えられます。PASが閉じたままで構内設備の条件が整っていれば、配電線の再送電にあわせて受電を再開できるため、PASの不要な開放による停電の長期化を避け、復旧しやすくなります。
PASの交換時期の目安
日本電機工業会(JEMA)の資料では、屋外用の高圧交流負荷開閉器(PAS)の更新推奨時期を「使用開始後10年」、PASを動かすSOGなどの制御装置も「使用開始後10年」としています。これは壊れる時期ではなく、通常の点検をしながら使った場合に、部品の劣化を考えると新品に替えた方が経済性を含めて有利とされる目安です。
PASは屋外の電柱上で雨風や紫外線、雷にさらされるため、使用開始後10年を目安に、前もって更新を計画しておくのが現実的です。使用環境や開閉回数、点検結果によっては、より早い対応が必要になることもあります。なお、更新推奨時期は寿命の保証値や法律で決まった交換期限ではありません。後半の取材でも、高橋は自身の現場経験から、PAS本体のトラブルとして経年劣化による絶縁不良を挙げています。点検報告書で絶縁抵抗の低下やSOGの動作不良を指摘された場合も、更新を検討するきっかけになります。
交換を決めたあと、見積りから電力会社との調整、停電・復電までを何の順で進めるかは、PAS・UGS交換工事の手順と流れで、費用の内訳とあわせて説明しています。
PASの交換は電力会社の配電線との境で行う工事のため、停電の日程は電力会社との調整で決まります。工事の費用は、電柱の位置や引込線の条件、高圧ケーブルを同時に更新するかどうかで変わります。実際の工事の流れや規模は、記事の後半で紹介している施工事例でご確認いただけます。
電気工事士に聞く、PASによる事故と復旧の実態
解説者
高橋 宏武
インタビュアー
岩見啓明
ーーー近隣設備のトラブルが原因で自社が停電する「波及事故」の事例を聞いたことはありますか?
これまでの現場経験では、波及事故が問題になるケースはほとんどありません。これは現在ではPASの設置が一般的になり、事故の切り分けが適切に行われていることが大きいと思います。
では、PASを動作させる具体的な例としては、意外と多いのが小動物による地絡事故です(前の記事でも説明しています)。この場合、設備側にも焦げや損傷が発生し、機器交換が必要になるケースもあります。
ーーーPAS本体が原因となるトラブルもあるのでしょうか?
あります。最も多いのは、経年劣化による絶縁不良です。
PASは屋外に設置される設備なので、長期間使用していると防水・絶縁性能が低下し、内部に水が浸入することがあるんです。その結果、絶縁性能が落ちて、異常動作や事故につながるケースもあります。
ーーーPASに不具合が生じた場合、復旧までにどの程度時間がかかるのでしょうか?
交換作業自体は、条件が揃えば2〜3時間程度で完了することが多いです。
ただし、実際には「電力会社との調整」「停電計画の確保」「作業日程の確保」といった事前準備に時間がかかるケースがほとんどです。特に、高圧設備の工事は単独では完結しないため、系統側(電力会社)との調整は時間を要します。
緊急性が高いと判断された場合は優先的に対応されることもあり、1週間程度で工事ができたケースもありますが、通常はそれ以上の期間を見込む必要があります。
ーーー雷などの突発的な事故の場合でも同様でしょうか?
雷などの影響によるトラブルでは、当日中に対応してもらえたケースもあります。ただし、これはあくまで事故の状況や電力会社の状況にもよるため、必ず即日復旧できるとは限りません。
PASの機器選定について
ーーーPASの更新や新設時は、どのような基準で機器を選定していますか?
主に保護機能の条件で判断しますが、特に重要なのが「方向性の有無」です。
地絡事故が発生した際に、それが自社設備内(所内)で発生したものか、系統側やほかの施設(所外)で発生したものかを判別する機能ですね。
ーーー方向性がないと、どのような影響があるのですか?
無方向性の場合、近隣で事故が発生した際にもPASが動作してしまうことがあります。
その結果、電力会社が再送電しても自社設備だけ復電せず、現地で電気主任技術者によって手動復旧してもらう必要が出てきます。
一方、方向性機能があれば、所外の事故では動作しないため、電力会社の再送電時にそのまま復電できます。そのため現在では、方向性付きPASが標準的に採用されるケースが多いです。
※方向性機能が抑えるのは、構外で起きた地絡によるPASの不要な動作です。適切な整定と正常な動作、構内設備の復電条件が整っていることが前提になります。
PASやUAS(UGS)は交換作業そのものが短時間でも、電力会社との調整と停電日程の確保に時間がかかり、工事日が見通せないことがあります。恒電社は電力会社への申請と停電日程の調整を含めて更新工事を進めます。
施工事例
まとめ|PASは事故の影響を外に広げないための重要な設備
PASは、単なる開閉器ではなく、キュービクルの入り口において、自社のトラブルが地域へ波及するのを抑える「防波堤」のような役割を担っています。
その運用において重要なポイントは、「SOGと連携して、地絡時や短絡後の無電圧時にPASが開くこと」「方向性機能の有無が復旧に大きく影響すること」です。設備担当者として、自社のPASの仕様や、更新履歴、動作環境を把握しておくことは、リスク管理の第一歩となります。
次回の記事では、PASの地中版とも言える「UAS(UGS)」について、その役割とPASとの違いを詳しく解説します。
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この記事を書いた人
蕨川 真央
PASの使用開始から10年が近づいている、点検で絶縁不良やSOGの不具合を指摘された、という段階でもご相談いただけます。恒電社が現地で電柱まわりの設置状況とSOGの仕様を確認し、電力会社との停電調整を含めた工程をご提案します。








