【区分開閉器 #1】PAS/ UAS(UGS)の「責任分界点」とは?高圧受電でまず確認すべきこと
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キュービクルを所有する設備オーナー・管理担当者が最も避けるべきリスクの一つが、自社設備のトラブルによって周辺一体へ停電させてしまう波及事故です。
こうした事故が発生した場合、どこまでが電力会社側の責任で、どこからが自社側の責任なのか。そして、事故発生時には誰が復旧を主導し、費用負担はどこまで発生するのか。これらの判断の前提となるのが「責任分界点」です。
本記事では、責任分界点の考え方とPAS・UAS(UGS)の役割を、実務判断に使えるレベルで整理します。
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目次
要約
責任分界点の役割
責任分界点とは、電力会社と需要家の設備責任を分ける境界で、費用負担や保守管理、事故対応の基準となる重要な考え方です。この境界が曖昧だと、復旧判断の遅れや停電拡大、工事コストの増加など、運用・経営両面でのリスクが高まります。
区分開閉器の重要性
責任分界点にはPASやUAS(UGS)などの区分開閉器が設置され、系統の切り分けや事故遮断、作業時の安全確保を担います。これにより自社設備の事故を電力系統へ波及させず、停電範囲を最小限に抑える役割を果たします。
設置実態とリスク
PAS等は法律で明文化された義務ではないものの、現在の受電規程では事実上義務化されているといえます。一方で古い建物では未設置の例もあり、小動物侵入やケーブル劣化による事故が近隣停電に拡大するなど、重大リスクにつながるケースがあります。
責任分界点とは|設備管理の“基準線”
責任分界点の定義
電気の世界における「責任分界点」とは、電力会社側の設備と需要家(自社)側の設備の責任範囲を分ける境界のことを指します。実務上は、以下の2つの観点で定義され、通常は同一地点に設定されます。
- 財産上の責任分界点:設備の所有権や、修理・更新費用の負担範囲の境目。
- 保安上の責任分界点:点検・清掃・事故対応などの管理責任を負う範囲の境目。
※契約条件や設備構成によっては一致しないケースもあります。
責任分界点が曖昧な場合に起こるリスク
責任分界点が明確でない場合、事故時や工事時に以下のような問題が発生します。
- 初動対応の遅れ:復旧までのタイムロス
停電や地絡事故発生時に、「電力会社へ連絡すべきか」「自社で対応すべきか」の判断が遅れることで、復旧までの時間が長期化します。数分の判断の遅れが、生産ライン停止や営業機会の損失拡大に直結するケースもあります。 - 波及事故のリスク:社会的な信頼失墜
自社設備の事故が電力系統へ影響すると、近隣施設を巻き込む停電(波及事故)に発展する可能性があります。この場合、社会的信用の低下、損害賠償リスク、事故対応コストの増大といった経営リスクにも直結します。 - 工事・コスト面の不確実性:計画の頓挫や予算超過
責任分界点が明確であれば、停電範囲、電力会社立会の要否、自社単独工事の可否を事前に判断できます。一方で不明確な場合、見積条件の変更や追加費用、工程遅延といったトラブルが発生しやすくなります。
※責任分界点の位置は、契約内容・地域・設備構成によって異なるため、最終的には電力会社との協議が必要です。
自主保安体制と責任分界点の関係
日本の電気事業法において、自家用電気設備は「自主保安(設備の安全確保を電力会社ではなく需要家自身が責任を持つ考え方)」が原則です。つまり、電力会社から電気を買っていても、キュービクル自体のメンテナンスや安全確保は、オーナー(設置者)が自らの責任で行う、という考え方です。
責任分界点は「どこまでが自社で管理すべき範囲か」を明確にする起点であり、設備管理の出発点となる重要な考え方です。
責任分界点の近くに設置される「区分開閉器」の役割
責任分界点付近(一般的には1号柱や受電キャビネット)には、区分開閉器が設置されます。この機器は単なるスイッチではなく、設備保護の観点から重要な役割を担います。
1)系統の区分(セクションの分離)
電力会社の系統と自社設備を物理的に分離します。この「区分」により、責任範囲を明確にします。
2)事故の切り分け(波及事故防止)
事故発生時に地絡・短絡電流を検知し、「保護協調」に基づいて自社側で遮断し、系統側への影響(波及事故)を防ぎます。
保護協調とは?
事故時に該当箇所のみを遮断し停電範囲を最小化するため、保護装置の動作電流や動作時間を適切に調整すること。電力会社は上位系統への波及事故を防ぎ安定供給を維持し、需要家(設備オーナー)は自設備内で事故を限定して不要な全停電や設備損傷を防ぐために重要となる。
3)保守点検の安全確保(メンテナンスの安全性)
点検・清掃・更新工事の際に、区分開閉器を開放することで、無電圧状態を確保し、安全に作業できる環境を構築します。
引込方式で変わる「PAS」と「UAS(UGS)」
区分開閉器は、電力の引込方式に応じて種類が分かれます。
| 種類 | 対応する引込方式 | 特徴 |
|---|---|---|
| PAS | 架空配電 (電柱から) | 電柱の上部に設置される高圧気中負荷開閉器。 落雷・鳥害・風雨などの外的要因を想定した設計。 |
| UAS (UGS) | 地中配電 (地中から) | 地上のキャビネット等に設置される地中設置の負荷開閉器。浸水リスクや省スペース性に優れる。 |
※各機器の詳細な仕組みや選び方については、連載の別記事にて解説します。
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電気工事士に聞く、区分開閉器は必須?設置義務と未設置リスクの実態
解説者
インタビュアー
ーーーPASやUAS(UGS)は、高圧受電の場合、必ずつけなければいけない設備なのでしょうか?
技術的に正確に言えば、法律(電気設備技術基準)で直接「PAS等を付けなければいけない」と明文化されているわけではない、というのが回答になります。
ただし、現代の基準においてPASなどの区分開閉器が付いていない状態で、新たに電力会社が高圧受電の契約(送電)を承認してくれることは、まずありません。これは電力会社が定めている「受電規程」というルールの中で、波及事故防止装置の設置が事実上の義務となっているからです。
ーーーでは、古くからある建物では未設置の箇所もあるのでしょうか?
はい。現場を回っていると、築30年、40年という物件では、PASやUGSが設置されていないケースは現在でも一定数存在します。
建設当時に「DS(断路器)」という単純なスイッチだけで認可を受けていれば、その後の法改正や基準変更があっても、強制的にPASを付けろという命令は出ないんです。
ーーーなるほど。当時の基準では「合格」だったから、そのまま使い続けられているわけですね。
その通りです。それに加えて、PASの設置には100万円単位のコストがかかりますし、工事には工場やビル全体の「停電」が不可欠です。設備オーナー様からすれば、利益を生まない設備にそこまでの手間と費用をかける決断が難しい、という現実的な側面もあります。
普及のターニングポイントは1990年代後半
ーーーPASが一般的になったのは、いつ頃からなのでしょうか?
転換点は1990年代後半から2000年代初頭ですね。この時期、高度経済成長期に建てられたビルの設備が一斉に老朽化し、波及事故が社会問題になりました。
1995年の電気事業法改正で「自己責任原則」が強まり、電力会社側も受電規程を厳格化しました。これ以降の新築物件では、波及事故防止装置の設置が事実上の必須条件となりました。
ーーー実際にPASがないことで起きた事故には、どのようなものがあるのでしょうか?
カラスの営巣や、ケーブル・トランスの経年劣化による絶縁破壊(パンク)などいくつかの原因があります。現場の感覚で言うと、意外と多いのは小動物が原因の事故ですね。
キュービクルの中は、小動物にとって暖かくて雨風もしのげる場所なんです。特に蛇は変温動物なので、寒い時期になるとキュービクルの中に入ってくることがあります。ネズミもよく入り込むことがありますね。
キュービクルの中には、LBSなどの充電部(電気が流れている部分)がむき出しになっている箇所があります。小動物が盤内を動き回っているうちに、電線の受電部分とキュービクルの金属部分、両方に同時に触れてしまい、それが原因で地絡事故が発生することがあります。
その場合、動物はほぼ確実に感電死し、設備側も焦げや損傷が発生します。接触した部分の機器は、交換が必要になることもあります。そのような事故が起きた際、PASの設置があればそのビルの停電だけで済みますが、未設置の場合、近隣への停電影響も出てしまいます。
ーーー地中事故の場合はどうですか?
地中を通る配電用の古いケーブルが経年劣化でパンクし、復旧まで半日近く近隣を巻き添えにしたケースもあります。地中線用のUAS(UGS)がないと、故障箇所の特定に時間がかかるため、被害が長期化しやすいです。
施工事例
まとめ
責任分界点は、単なる図面上の境界ではなく、事故時の対応、点検計画、費用負担のすべてを左右する実務の基準です。
この境界線で「波及事故」を食い止めるために設置されるのがPASやUAS(UGS)です。高圧受電設備を安定運用するためには、「自社の責任範囲がどこまでか」「事故時にどこで切り離せるか」を、図面と現地で必ず確認しておくことが重要です。
次の記事では、架空配電におけるPASの役割と種類について、詳しく解説します。
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