【中古キュービクル】導入のメリット・デメリット|導入を検討する際の注意点とは?
更新日:2025年12月11日

製造業や各種プラント・工場では、キュービクルの経年劣化やPCB含有機器の処分期限への対応を背景に、受変電設備の更新が急速に進みつつあります。設備更新のタイミングでは、「新品に入れ替えるべきか」「中古キュービクルを活用すべきか」という選択が、投資額だけでなく工場運営そのものに大きな影響を与えます。
かつては「中古=安い」という分かりやすいメリットがありましたが、変圧器の基準変更(いわゆるトップランナー基準の切り替え)以降は、市場価格の状況が変わりつつあります。条件によっては中古の方が新品より高くなるケースもあり、現在では“価格メリット”よりも、「長納期化が進む新品より、とにかく早く調達できるかどうか」が検討の主眼になる場面が増えています。
本稿では、工場・事業所の設備担当者様や経営層の方々に向けて、中古キュービクル導入の「具体的なメリット」と「見落とされがちなリスク・注意点」を整理します。設備投資の最適化と安全・安定稼働の両立を図りたい方は、ぜひ検討の整理にお役立てください。
目次
要約
中古キュービクル活用の背景:
工場では老朽化・保守費増・停電リスクの高まりに加え、PCB機器の処分期限も迫り、受変電設備更新の必要性が増しています。一方、新品キュービクルは納期が長期化し、早期調達が難しい状況にあります。このため、中古キュービクルは「価格よりも納期確保」を主眼に選択される場面が増えており、設備担当者にとって現実的な選択肢となりつつあります。
中古キュービクルのメリット:
中古キュービクルは構成次第で初期投資を抑えられ、特にトランスのみ中古化+VCB等の新品組み合わせでコストと安全性の両立が可能です。また、新品では8〜12ヶ月の納期が、中古在庫品なら即納・早期立ち上げが可能で、生産ライン増設や移設のスケジュール圧縮にも寄与します。
中古導入の注意点:
中古品は寸法・引込位置・盤構成が既設と一致しないことが多く、架台改造や配線ルート変更など追加対応が発生しやすい点が重要です。また、内部機器の劣化状況や更新履歴が不明なまま使用すると故障リスクが増大します。さらに旧仕様機器は部品入手難や保守改造の増加を招き、長期運用ではトータルコスト増につながる可能性があります。
専門家が語る中古活用の現実:
安全性・基準適合・信頼性の面から基本は新品が推奨され、中古が有効となるのは「納期を最優先する場合」や「既存仕様に合う代替が中古しかない場合」です。また、履歴不明の中古品は特に注意が必要で、名板欠損や仕様不明の品はリスクが高いとされています。さらに周波数違い(50Hz/60Hz)にも留意し、再採寸や絶縁試験など追加工程も前提とすべきです。
工場設備の課題から見る「中古キュービクル」導入の位置づけ
工場運用でよくある受変電設備の課題
キュービクルの設置から10年以上が経過した工場・事業所では、機器の経年劣化がじわじわと進行しています。見た目には問題がなくとも、内部では以下のようなリスクが高まっているケースが少なくありません。
- 絶縁材や遮断器(VCB)、変流器(CT)などの経年劣化
- 接点部の腐食や緩み
- 避雷器(LA)など高圧機器の性能低下
その結果、設備担当者・オーナーの立場からは、次のような課題が顕在化してきます。
- 計画外停止・稼働不能リスクの増大:
思わぬタイミングで遮断器が動作したり、絶縁不良によるトラブルが発生すると、製造ライン全体が止まってしまう可能性があります。特にラインを複数抱える工場では、短時間の停電でも生産・出荷計画に大きな影響が出ます。 - 保守費用・点検コストの増加:
経年劣化が進んだ設備ほど、年次点検や部品交換の頻度が増え、突発対応も発生しやすくなります。「まだ使えるから」と更新を後ろ倒しにするほど、トータルの維持コストはじわじわと上昇していきます。 - 契約電力の見直しに伴う設備拡張費用:
生産設備の増設や省エネ機器への切り替えに合わせて受電容量を見直す際、既設キュービクルのままでは対応できず、母線やブレーカー構成の変更が必要になるケースもあります。その場合、新旧機器の組み合わせ検討や、将来の増設余地を見込んだ設計が求められます。 - 外装腐食による漏水・短絡リスク:
屋外設置のキュービクルでは、立地条件によって外装のサビ・腐食が進みやすくなります。特に、沼地や海沿いのように湿気や塩害の影響を受けやすい環境では、錆びた箇所から穴が開き、そこから雨水が侵入してショートを引き起こすリスクも考えられます。
こうしたリスクを抱えたまま運用を続けることは、工場の安定稼働にとって大きな不安要素です。一方で、新品キュービクルの納期長期化により、「いつ設備を調達できるか」「いつ停電工事を実施できる状態になるか」といった調達リードタイムが大きな検討ポイントになりつつあります。
安定稼働を維持しながら、こうした更新リスクやスケジュール制約をどう乗り越えるか——その選択肢の一つとして検討されるのが、中古キュービクル(リユース品)の活用です。次章では、その具体的なメリットと注意点について整理していきます。
中古キュービクルを導入するメリット
1. 初期コストを抑えられる可能性がある
一般論として、中古キュービクル(もしくは一部に中古機器を用いたキュービクル)を活用することで、初期の設備費を抑えられる可能性があります。
とくにトランスのみ中古を活用し、遮断器(VCB)など故障リスクや影響度の大きい機器は新品に入れ替える構成とすることで、「すべて新品」の場合より設備費を抑えつつ一定の安全性・信頼性も担保するといったバランスをとることができます。
2. 納期の短縮
新品キュービクルは発注から納品まで数ヶ月かかることが一般的(現在では8ヶ月〜12ヶ月)ですが、中古品であれば在庫があるものを即納・設置可能な場合もあります。結果として、ライン増設や移設計画のスピードアップにつながります。
中古キュービクル導入の注意点
1. 既設設備との整合性・レイアウト制約
中古キュービクルを導入する際、まず押さえておきたいのが既設設備との整合性です。寸法・盤構成・引込位置・ケーブルの取り出し方向・既設の架台・建屋開口・配線ルートなどは、既存のキュービクルと必ずしも一致しません。そのため、以下のような検討が必要になるケースが多くなります。
- 設置スペースの調整(架台の追加・改造、基礎の打ち替え)
- ケーブル配線ルート・長さの見直し
- 他設備との離隔距離・保守スペースの確保
また、中古機側に図面が残っていない場合もあり、その際は現物の再採寸や、そこからの再設計が必要になります。導入前には、設備業者・電気工事業者による現地調査と、実機図面(もしくは採寸結果)の擦り合わせを行い、「据え付けてから想定外の追加工事が発生する」リスクを極力減らすことが重要です。
2. 機器劣化リスクと「どこまで中古か」の見極め
中古キュービクルと一口に言っても、その中身はさまざまです。
- 変圧器(トランス)だけ中古で、遮断器(VCB)や計器類は新品に交換済みの構成
- 主要機器の一部だけ更新されている構成
- 盤一式すべてが中古機器で構成されているもの
など、どの部分が中古で、どの部分が新品(もしくは更新済み)なのかによって、価格もリスクも大きく変わります。外観がきれいでも、内部では絶縁劣化、接点腐食・摩耗、サビの進行等が進んでいる可能性があり、とくに高圧側機器(VCB、LAなど)は、耐用年数を超えて使用すると突発故障のリスクが高まります。
そのため、以下の事項を、販売業者から書面や試験成績書の形で確認することが重要です。
- 「どの機器がいつ製造され、いつ更新されているか」
- 「中古のまま使用する機器」「新品に交換されている機器」
- 「出荷前にどの程度の検査・整備をしているか」
価格が安いものほど、盤内の機器が“すべて中古のまま”である可能性が高くなるため、単価だけにとらわれず、構成の中身と安心材料(履歴・検査情報)をセットで確認する視点が求められます。
3. 設備更新サイクルと技術陳腐化のリスク
中古キュービクルを採用する場合、最新仕様のキュービクルと比べて、制御・保護機能が旧式である可能性や、使われているリレーや計器、遮断器が旧世代のシリーズであるといったケースがあります。この場合、以下のような技術的なリスクが生じます。
- 将来的に交換用部品が入手しづらくなる
- 保守対応のたびに「代替機種への置き換え」「盤内改造」が必要になる
- 結果として、更新サイクルが短くなる/トータルのメンテナンス費用が増える
「今すぐ設備を立ち上げたい」「数年だけ使えれば良い」といった期間限定の設備であれば許容できる場合もありますが、長期で安定運用したい中核設備については、どの程度の期間、その設備を使い続ける想定なのか、その期間を見据えて、中古世代の仕様で問題ないのかを、導入前に整理しておくことが不可欠です。
参考記事:キュービクルの価格|構成要素と価格に影響を与える要因は?
電気工事士に聞く、中古キュービクルの導入が効果的な場面/慎重になるべき場面
解説者
インタビュアー
ーーーキュービクルの新設・更新の際に中古品が推奨されるケースと、逆に中古品は控えるべきケースを教えてください。
正直に言うと、キュービクルやトランス(変圧器)に関して「中古を積極的におすすめできるケース」は、ほとんどないと思っています。基本的には、どんな場合でも「新品のほうがいい」です。
新品のほうが、新しい基準に合致していて、安全性の面でも有利で、故障リスクも低いというのが大前提なので、「コストだけを見て中古を選びましょう」とは言いにくいですね。
ーーーでは、中古じゃないと困る場面というのは、どんなケースでしょうか?
理屈のうえでは、「既存設備に適合するものがそれしかない」という場面ですね。たとえば古い車だと、「この年式のこの部品じゃないと合わない」ということがありますよね。そういうときは中古パーツを探すしかない。
ただ、キュービクルに関して言うと、そこまで“その型番じゃないと絶対ダメ”というケースはほとんどありません。キュービクルは基本的に単独で完結していて、条件も同じなので、「どうしても中古じゃないとダメ」という状況はかなり限定的です。
実務的には、先述のとおり、新品の納期がすごく長いときに「納期だけの理由で中古を検討する」というケースが現場としては一番多いですね。
ーーーでは逆に、納期が最優先されるケースであっても「中古を控えたほうがいい」場合はありますか?
ポイントは一つで、製品の健全性がきちんと担保できるかどうかです。
- いつ更新されたのか
- どんなメンテナンスをしてきたのか
- どこまで部品を交換しているのか
こういった履歴が分かっていて、試験成績などもしっかり確認できれば、そこまで神経質になる必要はないと感じています。
一方で、お客様に特に気をつけていただきたいのは「譲り受けた中古品」などの場合です。前のオーナーから直接もらってきたようなケースですね。
- 中身の経緯がまったく分からない
- 機器の銘板が取れていて仕様が読めない
- 「銘板を張り替える」といった行為がゼロとは言い切れない
など、疑い出すとキリがないのですが「履歴が追えない中古品には一定のリスクがある」という前提は持っておくべきだと思います。
中古としてきちんと販売している業者から買う場合は、業者側も最低限の整備や試験をして出荷していることが多いので、そこまで極端に怪しいものは出てこないと思います。
設置工事費用
ーーー中古のキュービクルを採用する場合の、設置工事費用について、考え方や注意点を教えてください。
現場工事そのものの手間は、新品でも中古でも基本的にはあまり変わりません。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
中古品ならではの追加の手間や注意点としては、図面が欠落していることがあるので、再採寸や再設計の手間が発生することがあります。また、絶縁試験・耐圧試験などをもう一度やる必要があるケースもあります。
また、関東(50Hz)と関西(60Hz)の周波数の差も気をつけたい点です。稀なことではありますが、中古を他地域から持ってきて、そもそも使えなかったというケースも経験したことがあります。
施工事例
まとめ
中古キュービクルは、かつての「安いから選ぶ」設備ではなくなり、現在では長納期化する新品に対し、早期調達できるかどうかが最大の検討ポイントとなっています。初期費用を抑えられる可能性はあるものの、既設設備との整合性や内部機器の劣化、旧仕様による部品入手性の低下など、見落とすと大きなリスクにつながる要素も多く存在します。
導入を検討する際は、以下のポイントを整理しリスクとコスト・納期のバランスを最適化することが重要です。
- 何が中古で、どの部分が新品に交換されているのか(構成・履歴の明確化)
- 既設設備との寸法・レイアウト適合性
- どの期間使用する計画なのか(短期限定か、長期安定運用か)
特に長期運用する中核設備では「新品が基本」という専門家の意見も踏まえつつ、納期最優先のケースや一時的な設備増設など、目的に応じて中古キュービクルを選択肢に入れることで、安定稼働と投資判断の精度を高めることができます。
恒電社では、中古・新品の両面から最適な設備更新プランをご提案し、現地調査・仕様確認・施工まで一貫してサポートいたします。更新タイミングや機器選定でお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。
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