【病院向け】電気設備更新計画の進め方|無停電工事の段取りとリスク
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更新日:2026年7月16日

病院の電気設備の更新は、「停電が患者様の命に直結する」という、ほかのどの施設にもない重い前提を抱えています。人工呼吸器、透析装置など、一瞬たりとも電気を止められない設備を抱えながら、老朽化した高圧受電設備をどう更新するのか。これは多くの病院オーナー様・施設管理者様が頭を悩ませる問題です。
この記事では、「建物種別 電気設備更新計画」シリーズの病院編として、無停電を前提とした更新工事の進め方と、病院オーナーが知っておくべきリスクを、現場の視点から解説します。
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目次
要約
人命に直結する停電リスクの最小化
病院の電気設備更新が他施設と決定的に異なるのは、停電が患者様の生命に直結する点です。人工呼吸器・透析装置などは一瞬の停電も許されません。多くの病院は予期せぬ停電に備えて非常用自家発電設備を備えていますが、「自家発があるから安心」とは言い切れず、設備の容量や対象範囲、燃料の備蓄量を正確に把握しておく必要があります。停電を伴う工事では、透析患者の少ない曜日を狙うなど、診療実態に合わせた緻密な段取りが不可欠です。
「停電時間を延ばさない」を最優先にした計画
工場や商業施設では「多少停電が延びても工期内に終わらせる」判断もあり得ますが、病院では患者様の安全を守るため、停電時間を無理に延ばすことが原則できません。現場で想定外が起きた場合は、その日に作業を完了させようとせず、工事日程そのものを後ろ倒しにします。だからこそ事前の現地調査と図面確認、診療科ごとの停電許容条件の整理が、計画の成否を分けます。高圧受電設備(キュービクル)は受注生産品で納期もかかるため、更新を決めたら早めに、病院の運営実態を理解できる専門会社へ相談することが最善策です。
病院における電気設備更新の特殊事情
高圧受電設備(キュービクル)は、電力会社から受電した6,600Vの高圧電力を、院内で使う200V・100Vに変換・分配する設備で、まさに病院の心臓部にあたります。
老朽化した高圧受電設備や幹線、分電盤などは、定期的に新しい設備へ切り替える工事が必要です。
「停電が人命に直結する」という他施設にない前提
病院での更新工事が、ビル・工場・商業施設と決定的に異なるのは、停電が患者様の命に直結するという点です。
多くの施設では、稼働を止められる日や時間帯にある程度の幅があり、計画にも調整の余地が生まれます。しかし病院では、入院患者様が滞在し24時間365日稼働し続けるという特性があり、人工呼吸器や透析装置といった設備が止まれば、それがそのまま患者様の生命の危機につながりかねません。
現場では「工事の安全」はもちろんのこと、それ以上に「患者様の安全」が最優先されます。だからこそ病院の電気設備更新は、ほかのどの施設よりも慎重な計画と段取りが求められるのです。
救急・透析・食事——停電が止める病院の機能
病院で停電を伴う工事を行うと、診療以外にも幅広い機能に影響が及びます。実際の現場で配慮が必要になるのは、主に次のような点です。
| 影響する機能 | 停電時に起こること・必要な対応 |
|---|---|
| 救急の受け入れ | 工事時間帯は受け入れを停止し、消防(救急隊)へ事前に通達する必要がある |
| 透析 | 透析装置が止められないため、非常用発電機を利用する。透析患者の少ない曜日を狙って工事日を設定する |
| 院内の移動 | エレベーターが停止し、ストレッチャーや車いすでの上下移動ができなくなる |
| 食事の提供 | 「食材の衛生・温度管理」に加え、エレベーター停止により温冷配膳車での配膳が難しくなるため、提供時間や配膳ルートの変更など病院側との綿密な打ち合わせが必要 |
| 周辺への配慮 | 入院患者様がいるため、ケーブル通線時の掛け声を含めた作業音への配慮が必要 |
これらの院内調整の多くは病院側が段取りを組みますが、電気工事会社はその前提を正確に把握したうえで停電計画を立てなければなりません。「電気を止める」という一点が、これだけ多くの院内機能に波及するのが、病院特有の難しさです。
自家発電設備があれば安心、ではない理由
病院では用途や規模に応じて、消防法などの関連規定により非常電源(自家発電設備など)の確保が求められるケースが多く、実際に多くの病院が自家発電機を備えています。
ただし、自家発電設備の存在は「万能の保険」ではありません。注意すべきは次の3点です。
第一に、自家発電設備がカバーする範囲は限られていること。多くの場合、給電先は手術室や救急など生命維持に直結する系統に絞られており、病院のすべての設備をまかなえるわけではありません。
第二に、燃料の備蓄量に限りがあること。長時間の停電を伴う工事に、自家発電だけで対応し続けるのは現実的でないケースがあります。
第三に、自家発電設備自体も経年劣化すること。いざというときに起動しない、定格出力が出ないといった事態を避けるため、定期的な負荷試験と点検が欠かせません。
更新計画を立てる際は、まず自社の自家発電設備が「どこに・どれだけ・どのくらいの時間」給電できるのかを正確に把握することが出発点になります。
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「無停電」を実現する更新工事の進め方
病院の電気設備更新は、大きく次の4つのフェーズで進みます。
フェーズ1:現地調査・設備状況の確認
電気工事会社が現地で既存設備の年式・状態・仕様を確認します。このとき特に重要なのが、図面と実態の突き合わせです。長年運営されている病院では、増改築のたびに配線や機器が変わり、図面に載っていない改修が積み重なっているケースが少なくありません。
フェーズ2:停電計画・更新計画の策定
診療科・部門ごとの停電許容条件をもとに、停電のタイミングと範囲を設計します。仮設電源(発電機)の活用や、当日の作業を「切り替えのみ」に絞る事前準備で、停電時間を最小限に抑えます。
フェーズ3:発注・機器製作・着工準備
キュービクルは受注生産が基本で、発注から納品まで数カ月、仕様によっては1年程度かかることもあります。さらに病院では停電可能な日が限られるため、条件の合う工事日を確保しようとすると、結果的に着工が翌年になることもあります。早めの発注が計画変更のリスクを抑えます。
フェーズ4:工事・試験・引き渡し
停電を伴う工事は、院内各部門・救急隊への事前調整が前提です。工事後は試験運転、電気主任技術者への報告、使用前自主検査を経て引き渡しとなります。
停電時間を延ばすより、工期を延ばすという発想
ここが、病院の更新工事における最大のポイントです。
施設によっては、稼働を止められる時間にある程度の幅があり、現場で想定外が起きても、その時間内で対応を完了させられる場合があります。一方、病院ではその幅が極端に狭く、患者様の安全を守るために停電時間を無理に延ばすことが原則できません。
そのため、現場で想定外が発生した場合は、その日に無理やり完了させるのではなく、工事日程そのものを後ろ倒しにするという判断をとります。停電時間という“その日の制約”を絶対に守り、足りない作業は別日に回す。この発想の切り替えが、病院工事では欠かせません。
診療科・部門ごとの停電許容条件をどう整理するか
無理のない停電計画を立てるには、「どの部門が、どのくらいの停電なら許容できるのか」を事前に整理しておくことが出発点になります。
- 絶対に止められない設備:人工呼吸器、透析装置などは、自家発電や仮設電源での給電継続を前提に計画する。
- 時間帯の調整が必要な機能:救急受け入れ、食事の調理・提供は、停止する時間帯と院内対応をあらかじめ決めておく。
- 曜日を選べる診療:透析のように、患者数の少ない曜日を狙うことで影響を抑えられる診療もある。
これらの情報は、病院の運営実態を最もよく知る病院側にしか整理できません。早い段階で電気工事会社へ共有いただくほど、無理のない停電スケジュールを逆算して設計できます。
電気工事士に聞く、病院における電気設備更新の現場事情
解説者
インタビュアー
ーーー病院の高圧受電設備の更新工事で、ビルや工場、商業施設と大きく異なる点はどこですか?
一番は、停電が患者様の命に関わるという重さです。だから「工事の安全」だけでなく、それ以上に「患者様の安全・日常への影響を最小限にすること」を最優先で考えます。
停電が与える影響の範囲も広いです。まず、停電させると救急の受け入れができなくなるので、お客様には消防や関係機関に「この時間は受け入れできません」と通達してもらう必要があります。
また、院内の日常的な運用にも影響が出ます。たとえばエレベーターが止まるとストレッチャーや車いすでの「階をまたいだ移動」ができなくなります。同一フロアの移動はできても、上下の移動が一切遮断されてしまいます。
食事に関しても、冷蔵庫が止まることによる「食材の衛生・温度管理」は深刻な問題になります。さらに、病院では温かいものは温かく、冷たいものは冷たいまま運ぶ「温冷配膳車」を使ってまとめて各病棟へ食事を運ぶことが多いですが、エレベーターが止まると、これも使えなくなります。そのため、提供の時間や配膳ルートをどうするか、病院内でかなり綿密に調整してもらわないといけません。
院内の手続きは基本的に病院側で段取りを組んでもらいますが、我々はその前提を全部把握したうえで停電計画を立てる必要があります。
ーーー病院特有の「止められない設備」がある中で、どうやって停電を伴う工事を進めるのですか?
そもそも停電が一切できないような病院は、病院様が持っている自家発電機で対応してもらいます。予期せぬ停電に備えて、発電機を備えている病院は多いです。
それでも止められない診療はあります。たとえば先日、透析患者様がいらっしゃる病院で、透析が必要な患者様の少ない曜日を狙って工事日を設定しました。患者様ごと、診療ごとに事情が違うので、そこを読んで段取りを組んでいきます。
ーーー「自家発電機があるから停電しても大丈夫」と考えている病院も多いと思いますが、落とし穴はありますか?
確かに自家発電機をもっている病院は多いです。しかし、カバーできるのは生命維持に直結する系統が中心で、病院全体の電力をまかなえるわけではありません。また、備蓄している燃料の量にも限りがあります。
だからこそ「自家発電機があるから平気」ではなく、「どこに・どれだけ給電できるのか」を、こちらも事前にきちんと確認したうえで計画を立てる必要があります。
病院特有の“想定外”
ーーー「すぐ終わる」と思っていた工事でも、現場で想定外の事態がおきたケースはありますか?
ありました。いざ作業を始めてみたら、新旧の機材でサイズが異なることが判明したケースです。追加の部品手配や加工が必要になり、当初の予定よりも大幅に時間がかかってしまいました。
普通の現場なら「停電時間を少し延ばして今日中に終わらせよう」とするところですが、病院ではそれができません。医療機器の稼働といった患者様の安全はもちろんですが、入院されている方の食事や入浴といった日々の生活スケジュールにも支障が出てしまうため、停電時間を無理に延ばすという選択ができないんです。
そのため、その日の工事は中断し、仕切り直して「来年」へ持ち越すという判断をしました。
ーーー翌週や翌月ではなく、「1年後」になったんですね。
そうです。電力会社・電気工事会社の調整に加え、さきほどの透析のように病院側での停電できる条件のそろう日時を押さえようとした結果、翌年になってしまった、という事情です。
どれだけ事前に計画を詰めても、工事に想定外はつきものです。そして、病院では「想定外が起きても停電時間は延ばさない」を最優先で貫きます。その結果として、工事日が翌年にずれ込むこともあります。これは計画の不備ではなく、患者様の安全を最優先したうえでの正しい判断だと考えています。
安全第一、それも患者様の命がかかっている安全だからこそ、譲れません。
都市部と地方で変わる難易度
ーーー埼玉県の病院と東京都の病院で、どんな差がありますか?
敷地面積のゆとりが工事の進行にも大きく関わってきますね。設置場所や工事の準備スペースが広く取れて、重機を簡単に据えられる環境であれば、工事は比較的スムーズに進みます。十分なスペースを確保できない場合は、別の手段を考えなければいけません。
病院は構造的にも特徴があって、ストレッチャーや車いすで患者様が移動されることを考えると、本来は上下移動が少ない方がいいんです。だから地方では、広い土地に2〜3階くらいで横に広く収める病院が多いんです。
一方、都内は敷地に限りがあることも多く、どうしても建物を高層化せざるを得ません。そうなると、停電工事中にエレベーターが使えない、ストレッチャーで階をまたいだ移動ができないといった影響が、地方の病院より大きく出やすくなります。
ーーー最後に、病院オーナー様が事前に準備しておくと工事がスムーズになる情報はありますか?
まずは設備の図面ですね。さきほどのブレーカーのサイズのように、図面と実態が食い違っていると、現場で想定外につながります。最新の図面と、既存設備の正確な仕様をご共有いただけると助かります。
そして、診療科ごとの「止められない設備」「止められる曜日・時間帯」の情報です。これは病院側にしかわからない情報なので、早くご共有いただくほど、患者様への影響が最も小さい停電スケジュールを逆算して設計できます。
まとめ
病院の電気設備更新は、停電が患者様の命に直結するという、他施設にない重い前提のもとで進める必要があります。
この記事のポイント 3点
- 病院では停電が人命に直結するため、「止められない設備」があることを前提に、自家発電や仮設電源を活用した無停電の段取りが不可欠です。
- 「自家発があるから安心」とは限りません。給電範囲・燃料・自家発自体の劣化を把握したうえで計画を立てる必要があります。
- 病院では停電時間を無理に延ばさず、想定外が起きたら工事日程のほうを後ろ倒しにするのが大原則。だからこそ事前の図面確認と診療科ごとの停電許容条件の整理が成否を分けます。
「24時間稼働する設備を止めずに更新できるのか」という不安から、更新を先送りにしてしまう病院は少なくありません。しかし老朽化した設備を放置するほど、突然の停電や故障というリスクは高まります。
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