更新日:2026年10月22日
築30年を超えたビルやマンションを所有・管理していると、避けては通れないのが設備更新。特に高圧電気設備の更新は、営業活動や日常生活にも直結する問題のためビル運営にとって重要な要素の一つです。
一方で、劣化具合や更新対象については専門的な知識が必要な部分も多く「電気設備の更新時期がそろそろなはず…」とは知りつつも、「いつ、何から動けば良いか」が具体的に分からないまま時間が過ぎてるオーナー様も少なくないかもしれません。
この記事では、「建物種別 電気設備更新計画」シリーズの一つとして、ビルにおける電気設備更新の計画の立て方と、築年数が経過したビルのオーナー様が知っておくべきリスクについて、現場の視点から詳しく解説します。
キュービクルの全体交換と部分更新の選び方、点検報告書で「要注意」と言われたときの読み方、オフィスビルのLED化の進め方は、次の記事で解説しています。
工事の対応内容は、キュービクル新設・更新・撤去・修繕工事の対応内容をご覧ください。
要約
老朽化のリスク把握
築30年を超えたビルで建設当時の受変電機器を使い続けている場合、日本電機工業会(JEMA)が示す更新推奨時期(油入変圧器は20年、避雷器は15年など)を過ぎた機器が多くなります。絶縁劣化による事故が電力会社の配電線にまで及ぶ「波及事故」になると、周辺の建物まで停電させ、損害賠償を求められる可能性もあります。旧式の機器は補修部品の供給が終わっていることがあり、故障したときの復旧に時間がかかる場合もあります。見た目に変化がなくても、劣化は設備の内部で進むことを前提に考える必要があります。
計画的な更新の進め方
リニューアルを成功させる鍵は、現状把握と余裕を持ったスケジュール管理にあります。キュービクルは受注生産が基本で、納期はメーカー・機種・仕様・発注時期によって変わり、長くかかることがあります。また、稼働中のビルでは「いかに停電時間を短縮するか」が重要となるため、仮設電源の活用や深夜・休日施工など、テナントへの影響を最小化する手法を工事会社と早期に協議すべきです。「壊れてからの緊急対応」は費用も工期も見通しが立てにくくなるため、事前の現地調査が欠かせません。
築30年超のビル|電気設備に潜むリスクとは
老朽化した受変電設備・配線・照明などの電気系統は、計画的に新しい設備に更新することが必要です。
しかしながら、劣化が目に見えるために修繕計画を立てやすいビルの外壁や内装と比べ、電気設備は設備室の中や壁の内側に隠れているため、「現状動いているから問題ない」と判断されがちなのも事実です。
高圧受電設備(キュービクル)の中の機器には、日本電機工業会(JEMA)が更新推奨時期を示しています。たとえば油入変圧器は20年、真空遮断器(VCB)は20年または規定の開閉回数、避雷器・高圧進相コンデンサは15年、保護継電器は15年(使用環境により大きく変わる)です(「高低圧電気機器保守点検のおすすめ」2024年改訂)。これはメーカーが性能を保証する期間ではなく、通常の保守・点検をして使った場合に、新品に交換したほうが経済性も含めて一般に有利と考えられる時期です。
なお、税法上の法定耐用年数は減価償却の計算に使う年数で、更新推奨時期とは別のものです(事務所など工場以外の建物の受変電設備は、建物附属設備の電気設備「その他のもの」として15年)。
築30年を超えたビルで、建設当時の機器を更新せずに使い続けている場合は、こうした年数を過ぎていることになります。機器ごとの更新推奨時期と法定耐用年数の違いは、キュービクルの耐用年数を解説した記事で一覧にしています。そのまま放置すると、主に次の3つのリスクがあります。
停電・波及事故のリスク
絶縁体が経年劣化すると、短絡事故(ショート)や地絡(漏電)が発生しやすくなります。最悪の場合、自社設備の事故が電力会社の配電線に供給支障を起こし、周辺の建物まで停電させる「波及事故」に発展しかねません。電気関係報告規則(第3条)では、電圧3,000V以上の自家用電気工作物の破損などで一般送配電事業者に供給支障を起こした事故を、産業保安監督部長への報告の対象にしています。波及事故を引き起こすと、復旧工事の費用負担だけでなく、周辺施設への損害賠償が生じる可能性もあります。
保守部品の調達が困難
製造から20年以上が経過した機器は、メーカーのサポートが終了し、補修部品の供給が打ち切られている場合があります。故障しても修理ができず、緊急工事を余儀なくされる事態は現場でも珍しくありません。緊急対応は通常の工事より費用が高くなりやすく、工期も読みにくくなります。
法令上のリスク
高圧で受電するビルの受変電設備は、電気事業法の自家用電気工作物にあたります。設置者には、設備を技術基準に適合するように維持する義務(第39条)と、保安規程を定めて守る義務(第42条)があります。設備が技術基準に適合していないと認められると、国から修理・改造や使用の一時停止などを命じられることがあります(第40条)。劣化を放置して、電気設備に関する技術基準を定める省令(電技省令)の基準を満たせない状態で使い続けることは、法令上のリスクにもなります。
「そろそろ限界」を示すサインを見逃さない
設備の寿命が近付いているサインは、日常の管理業務の中に現れます。以下のような兆候がないか確認してみてください。
- ブレーカーが頻繁にトリップする:過電流保護機器の動作特性変化や、設備容量が現在の電気負荷に追いついていない可能性があります。
- 設備室から異音・異臭がする:変圧器(トランス)やコンデンサからの唸り音、焦げたような匂いは、内部異常の可能性があります。
- 定期点検の報告書に「要注意」が続いている:電気主任技術者や点検業者から「経年劣化」「要監視」という指摘が複数回出ているなら、更新の検討を急ぐ段階に入っていると考えられます。
- 増設・改修のたびに対応が複雑になっている:既存設備の容量や構成が現在の使用実態に合わず、場当たり的な対応が増えている場合は、根本的な見直しの時期だといえます。
異音・異臭や頻繁なトリップなど、異常が疑われる兆候がある場合は、兆候の数にかかわらず、まず電気主任技術者に連絡して対応を確認してください。そのうえで、更新が必要な範囲を工事会社の現地調査で具体的に確認します。
キュービクルを全体で交換するか、一部の機器だけ更新するかの判断基準は、次の記事で解説しています。

リニューアル計画の進め方|現地調査から工事完了までのフェーズ
電気設備のリニューアルは、大きく以下の4つのフェーズで進行します。
- フェーズ1:現地調査・設備の状況確認
工事会社が現地を訪れ、既存設備の年式・状態・仕様を確認します。現地調査の前に年次点検報告書をご用意ください。設備図面(単線結線図など)もあると、確認がスムーズです。 - フェーズ2:更新計画・見積もりの策定
調査結果をもとに、「全体交換」か「部分更新」か、優先順位を工事会社と協議します。テナント側の停電許容時間、建物の運用スケジュール、予算規模を具体的に共有することで、実態に即した計画が策定できます。 - フェーズ3:発注・機器製作・着工準備
高圧受電設備(キュービクル)は受注生産が基本です。2026年5月公開のコラム「電気主任技術者から『更新が必要』と言われたら?」では、高圧機器の発注から納品まで半年から1年近くかかる長納期化が常態化していると説明しています。現在の納期はメーカー・機種・仕様・発注時期によって異なるため、案件ごとに確認します。余裕を持った早めの発注が、計画変更のリスクを抑えます。 - フェーズ4:工事・試験・引き渡し
停電を伴う工事の場合、テナントや入居者との事前調整が不可欠です。機器を据え付けたら、電気工事会社が絶縁抵抗測定や絶縁耐力試験、保護継電器の動作確認などの試験を行い、その結果を電気主任技術者が確認してから受電を再開します。電気事業法の工事計画の届出が必要な需要設備は、受電電圧が1万V以上のものの設置などに限られており(電気事業法施行規則 別表第二)、6,600Vで受電するキュービクルの更新は通常この届出の対象ではありません。工事計画の届出をして設置・変更する事業用電気工作物のうち省令で定めるものに課される「使用前自主検査」(電気事業法第51条)の対象にもなりません。竣工時の確認は、設置者が定める保安規程に基づく点検・検査として、電気主任技術者のもとで行います。試験から受電再開までの流れは、キュービクル更新工事の手順を解説した記事で確認できます。
テナント・入居者への影響をどう最小化するか
稼働中のビルで最も調整が難しいのが「停電時間の確保」です。影響を抑えるための主なアプローチをご紹介します。
- 深夜・休日施工:営業時間外に集中して工事を実施します。割増の費用がかかることがありますが、自社やテナントの営業への影響を抑えやすくなります。
- 段階的施工:設備構成や工事内容によっては、施工を数回に分けて1回あたりの停電時間を短くできる場合があります。全体の工期が長くなる場合があります。テナントの営業条件も踏まえて、施工を分けることで負担を軽減できるか検討します。
- 仮設電源の活用:追加費用はかかりますが、仮設の発電機などから必要な設備へ電気を送りながら施工することで、テナントの停電を短くできる場合があります。仮設電源の容量や、つなげる回路には制約があります。
最適なアプローチは、設備の状態・テナントの業種・予算規模によって異なります。工事会社と早い段階から詳細を詰めることが、トラブル防止への近道です。東京都千代田区の高層ビルで9階屋上のキュービクルを更新した事例では、施工担当が、強風・雨・雷などの悪天候で作業を中断・延期する可能性があるため、予備日の設定や、ビル管理者・電力会社・協力会社との連絡体制の確立が必要だと説明しています。屋上での更新工事の注意点は、高層ビル屋上のキュービクル更新の施工事例で確認できます。ほかのビルの事例は、ビルの電気設備更新工事の事例まとめに集めています。
電気工事士に聞く、経年が進んだビルにおける電気工事の現場
解説者
高橋 宏武
インタビュアー
岩見啓明
ーーービルの高圧受電設備の更新工事で、工場や商業施設と大きく異なる点はどこですか?
一番の違いは、設備が「立体的」に配置されている点です。工場は広い敷地に平面的な設備が多いですが、ビルの場合は限られたスペースを活用するため、上層階や屋上、地下などに設備が分散しています。
そのため、資材の搬入経路の確保や、停電させる「順序」が非常にシビアになります。
例えば、エレベーターを動かして資材を上層階へ運び終えてからでないと、建物全体の電源を切れないといった工程管理が求められるのがビル特有の難しさです。
ーーーなるほど、工事の進め方が肝になってくるんですね。では、設備更新の計画フェーズで、オーナー様が事前に準備してくださっていると嬉しい情報などはありますか?
大きく分けて「設備仕様を正確に把握するための書類」と、停電計画を立てるための「テナント情報(業種や営業時間)」の2点をご準備いただけると非常に助かります。
まず書類については、「月次・年次点検報告書」「竣工図面(単線結線図や平面図、系統図など)」「電気料金の明細」の3点です。詳しくはこちらの記事でお話しした通りです。
次にテナント情報についてですが、停電を伴う工事の場合、各テナント様の営業時間や、PC・サーバー・エレベーターの停止可能時間帯などを事前にヒアリングし、情報共有していただけると非常にありがたいです。
この情報があれば、我々施工会社も「テナント様の業務影響を最小限に抑える、最短の停電スケジュール」を逆算して設計することが可能になります。
ーーーテナント様が入居したまま工事をする場合、停電時間を短くするために工夫していることを具体的に教えてください。
停電時間は工事の内容以上に、事前調査・工程設計・現場対応といった「施工会社の段取りの質」によって大きく左右されます。テナント様への影響を最小限に抑えるため、私たちは徹底した「事前準備」と「当日の現場対応」を行います。
具体的には、事前の現地調査を徹底し、必要な材料や機器を漏れなく事前手配しておくのは当然として、当日の施工では「工程の並行作業」を緻密に設計し、作業員の手待ち時間をなくします。
最も重要なのが「停電前の仕込み作業」です。通電したままでも安全に行える部材の組み立てや準備作業はすべて停電前に済ませておき、いざ停電した後は「電気が止まっていないと絶対にできない作業(高圧ケーブルの切り離しや機器の入れ替えなど)」だけに全力を集中させます。
復電前の最終確認作業も効率化することで、テナント様の負担を最小限に抑えています。
停電時間を短くするための事前準備と当日の現場対応は、次の記事でさらに詳しく解説しています。

現地調査や、工事の際に起こる“想定外”
ーーー「まだ使える」と思われていた設備が、現地調査後に「実はそうではない」と判明するケースはありますか?
多々ありますね。特に、設備そのものは動いていても、「目視でわかる深刻な劣化・外傷」が進んでしまっているケースは少なくありません。
経年劣化は「設置年数」だけで判断されがちです。しかし、実際には「設置環境(腐食性ガスが発生しやすいエリア、潮風の影響を受ける塩害地域など)」で、劣化のスピードは大きく変わります。
たとえば、屋外に設置されているキュービクルの外装が錆びて穴が開きかけている状態。オーナー様からすれば「今は普通に使えている」とお感じになるかもしれませんが、プロの目から見ると、そこから雨水が侵入すれば即座にショートを引き起こし、全館停電や火災に直結する非常に危険な状態です。
また、主遮断器や波及事故防止機器(PAS・UGS)に異常の兆候がある場合も同様です。これらが故障すれば、自社ビルだけでなく近隣一帯を巻き込む「波及事故」に発展し、多額の損害賠償リスクを抱えることになります。
「動いているから安全」ではなく、「事故が起きる一歩手前である」という事実と、それに伴う社会的・経済的リスクの大きさを丁寧にご説明するようにしています。
※雨水の侵入は短絡などの事故につながるおそれがありますが、侵入すれば必ず即座に短絡・全館停電・火災が起きるという意味ではありません。主遮断器やPAS・UGSの故障も、必ず波及事故になるわけではありません。危険性や対応の緊急度は、劣化や異常の内容を電気主任技術者が確認して判断します。
ーーー築年数の経っているビル特有の「想定外」が発生しやすい工事フェーズはどこですか?
まずは、やはり「着工時」です。特に「既存の配管や基礎を流用する」場合ですね。稼働中には見られなかった部分が、いざ作業を始めて見えるようになった瞬間に想定外が発覚することが多いです。
書類や図面だけを見て工事計画を立てると、長年稼働しているビル特有の「経年による周囲環境の変化」を見落とす危険があります。たとえば「配管経路が狭くなっている部分があった」「改装やリフォームの際に点検口が塞がれてしまいアクセスできない」といったケースもありました。
ほかに想定外が発生しやすいのは「搬入・揚重」作業の時で、図面上では搬入スペースがあっても、数十年で樹木が生い茂ってクレーンが使えなくなっていたり、隣の建物が新築されて重機が入る隙間が狭くなっていたり、地盤が不等沈下を起こしているケースがあります。
また、既存のコンクリート基礎が劣化していて強度が足りず、そのままでは新しい機器の重さに耐えられないといった事態も現場では発生します。
これらは事前の現地調査でプロが見抜いておかないと、施工当日に「重機が搬入できない」「工事が中断する」といった深刻なトラブル(想定外)に直結してしまいます。
経年ビルの費用対効果について
ーーー建物の残存価値と、電気設備更新工事の費用対効果が合わない場合は、どのようなご提案をしますか?
ビルがあと数年で解体予定にも関わらず、高圧設備の老朽化により更新の必要が出てくるケースでは、正直、ご提案できる幅がかなり狭くなってしまいます。
一昔前なら、「中古のキュービクル・トランスで安く抑えましょう」というご提案もできましたが、今は中古品自体が手に入りづらく、価格も高騰しています。そのため、基本は新品での交換をご提案しますが、たとえば「あと5年しか使わない」という場合、新品を導入し、建物解体時にその設備を中古として売却する、という選択肢もあります。
入手困難で割高な中古を探してしのぐのか、将来の売却価値を考慮して新品を手に入れるか。建物の残りの寿命と照らし合わせ、どちらがトータルで損失を抑えられるかという視点で、最適な着地点を探るようにしています。
※中古品の入手性・価格は取材当時の説明です。現在の条件は案件ごとに確認します。
まとめ
築30年を超えたビルで更新推奨時期を過ぎた電気設備を使い続けていると、「波及事故」「部品調達困難」「法令リスク」の3つのリスクが高まります。更新推奨時期を過ぎたこと自体が法令違反になるわけではありませんが、劣化を放置して技術基準に適合しなくなると、法令上の問題になります。
- キュービクルは受注生産が基本で、納期は仕様や発注時期で変わるため、早めの計画と発注が必要。
- テナントへの影響を抑えるには、仮設電源や深夜施工などの早期検討が鍵。
- 「壊れてから直す」のではなく「壊れる前に直す」ほうが、費用と工期の見通しを立てやすい。
「まずは設備の状態を見てほしい」という段階からのご相談もお待ちしております。恒電社では、現地調査から施工まで一貫してサポートいたします。現地調査の前に年次点検報告書をご用意ください。単線結線図もあると、設備の状態と更新の優先順位を早く整理できます。所有されているビルの電気設備に不安を感じてきたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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この記事を書いた人
岩見啓明




