更新日:2026年10月25日
病院の電気設備の更新は、「停電が患者様の命に直結する」という、ほかのどの施設にもない重い前提を抱えています。人工呼吸器や透析装置など、電気が止まると患者様の安全に関わる設備を抱えながら、老朽化した高圧受電設備をどう更新するのか。これは多くの病院オーナー様・施設管理者様が頭を悩ませる問題です。
この記事では、「建物種別 電気設備更新計画」シリーズの病院編として、無停電を前提とした更新工事の進め方と、病院オーナーが知っておくべきリスクを、現場の視点から解説します。
同じシリーズのビル編・工場編・商業施設編は、次の記事で読めます。
要約
人命に直結する停電リスクの最小化
病院の電気設備更新が他施設と決定的に異なるのは、停電が患者様の生命に直結する点です。人工呼吸器・透析装置など、電気が止まると患者様の安全に関わる医療機器があります。多くの病院は予期せぬ停電に備えて非常用の自家発電設備を備えていますが、「自家発があるから安心」とは言い切れません。給電できる範囲、燃料の備蓄量、停電してから発電機の電気が届くまでの時間差を正確に把握しておく必要があります。停電を伴う工事では、透析患者の少ない曜日を狙うなど、診療実態に合わせた緻密な段取りが不可欠です。
「停電時間を延ばさない」を最優先にした計画
施設によっては、停電時間を少し延ばしてその日のうちに終わらせる判断もあり得ますが、病院では患者様の安全を守るため、停電時間を無理に延ばすことが原則できません。現場で想定外が起きた場合は、安全に受電を再開できる状態に戻し、その日に作業を完了させようとせず、工事日程そのものを後ろ倒しにします。だからこそ事前の現地調査と図面確認、診療科ごとの停電許容条件の整理が、計画の成否を分けます。高圧受電設備(キュービクル)は受注生産が基本で納期がかかることもあるため、更新を決めたら早めに、病院の運営実態を理解できる専門会社へ相談することが最善策です。
病院における電気設備更新の特殊事情
高圧受電設備(キュービクル)は、電力会社から6,600Vの高圧で受け取った電気を、院内で使う100V・200Vなどの電圧に変えて各所へ配る設備で、まさに病院の心臓部にあたります。
老朽化した高圧受電設備や幹線、分電盤などは、定期的に新しい設備へ切り替える工事が必要です。
「停電が人命に直結する」という他施設にない前提
病院での更新工事が、ビル・工場・商業施設と決定的に異なるのは、停電が患者様の命に直結するという点です。
多くの施設では、稼働を止められる日や時間帯にある程度の幅があり、計画にも調整の余地が生まれます。しかし病院では、入院患者様が滞在し24時間365日稼働し続けるという特性があり、人工呼吸器や透析装置といった設備が止まれば、それがそのまま患者様の生命の危機につながりかねません。
現場では「工事の安全」はもちろんのこと、それ以上に「患者様の安全」が最優先されます。だからこそ病院の電気設備更新は、ほかのどの施設よりも慎重な計画と段取りが求められるのです。
救急・透析・食事——停電が止める病院の機能
病院で停電を伴う工事を行うと、診療以外にも幅広い機能に影響が及びます。実際の現場で配慮が必要になるのは、主に次のような点です。
| 影響する機能 | 停電時に起こること・必要な対応 |
|---|---|
| 救急の受け入れ | 受け入れを止める時間帯がある場合は、病院から消防(救急隊)や関係機関へ事前に伝えてもらう |
| 透析 | 透析装置への給電を非常用発電機などでどう確保するかを、切り替え時の瞬断への備えも含めて事前に確認する。透析患者の少ない曜日を選んで工事日を設定することもある |
| 院内の移動 | 対象のエレベーターが停止する場合、通常のストレッチャー・車いすでの階間移動が制限される |
| 食事の提供 | 「食材の衛生・温度管理」に加え、エレベーター停止により温冷配膳車での配膳が難しくなるため、提供時間や配膳ルートの変更など病院側との綿密な打ち合わせが必要 |
| 周辺への配慮 | 入院患者様がいるため、ケーブル通線時の掛け声を含めた作業音への配慮が必要 |
これらの院内調整の多くは病院側が段取りを組みますが、電気工事会社はその前提を正確に把握したうえで停電計画を立てなければなりません。「電気を止める」という一点が、これだけ多くの院内機能に波及するのが、病院特有の難しさです。
自家発電設備があれば安心、ではない理由
停電に備えて自家発電設備を持つ病院は多く、消防法令にも非常電源の基準があります。たとえば屋内消火栓設備の非常電源について、消防法施行規則第12条第1項第4号は、病院を含む特定防火対象物で延べ面積1,000㎡以上のもの(小規模特定用途複合防火対象物を除く)では、自家発電設備・蓄電池設備・燃料電池設備のいずれかによると定めています。ただし、この規定は消防用設備を動かすための非常電源についてのもので、医療機器への給電を定めたものではありません。
自家発電設備の存在は「万能の保険」ではありません。注意すべきは次の4点です。
第一に、自家発電設備がカバーする範囲は限られていること。発電機の容量や、つながっている回路(系統)は病院ごとに異なり、病院のすべての設備をまかなえるとは限りません。
第二に、燃料の備蓄量に限りがあること。長時間の停電を伴う工事に、自家発電だけで対応し続けるのは現実的でないケースがあります。
第三に、自家発電設備自体も経年劣化すること。いざというときに起動しない、定格出力が出ないといった事態を避けるため、設備に適用される基準に沿った点検と性能の確認が欠かせません。
第四に、停電してから発電機の電気が届くまでには時間差があること。消防用設備等の非常電源とする自家発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)では、常用電源が停電してから電圧確立・投入までの所要時間を原則40秒以内としています(投入を手動とする設備では投入操作の時間を除くなど、例外もあります)。これは消防用設備等の非常電源についての基準で、医療機器へ電気が届くまでの時間を示すものではありませんが、自家発電設備は停電の瞬間から途切れずに電気を送る仕組みではありません。そのため、瞬時の停電も避けたい機器は、無停電電源装置(UPS)や機器の内蔵バッテリーで備えているかを、病院側で確認しておく必要があります。
更新計画を立てる際は、まず自社の自家発電設備が「どこに・どれだけ・どのくらいの時間」給電できるのかを正確に把握することが出発点になります。
キュービクルを全体で交換するか、一部の機器だけ更新するかの判断基準は、次の記事で解説しています。

「無停電」を実現する更新工事の進め方
ここでいう「無停電」は、受電設備を止めないという意味ではありません。受電を止める工事でも、止められない設備への給電を自家発電設備・仮設電源・UPSなどで続けられるように段取りを組むことを指します。そのためには、対象となる機器ごとに、工事中の給電経路、発電機へ切り替わる間の瞬断への備え、発電機の容量と給電を続けられる時間を、事前に病院側と確認しておくことが前提になります。病院の電気設備更新は、大きく次の4つのフェーズで進みます。
フェーズ1:現地調査・設備状況の確認
電気工事会社が現地で既存設備の年式・状態・仕様を確認します。このとき特に重要なのが、図面と実態の突き合わせです。長年運営されている病院では、増改築のたびに配線や機器が変わり、図面に載っていない改修が積み重なっているケースが少なくありません。
フェーズ2:停電計画・更新計画の策定
診療科・部門ごとの停電許容条件をもとに、停電のタイミングと範囲を設計します。仮設電源(発電機)の活用や、当日の作業を「切り替えのみ」に絞る事前準備で、停電時間を最小限に抑えます。
フェーズ3:発注・機器製作・着工準備
キュービクルは受注生産が基本です。2026年5月公開のコラム「電気主任技術者から『更新が必要』と言われたら?」では、高圧機器の発注から納品まで半年から1年近くかかる長納期化が常態化していると説明しています。現在の納期はメーカー・機種・仕様・発注時期によって異なるため、案件ごとに確認します。さらに病院では停電可能な日が限られるため、条件の合う工事日を確保しようとすると、結果的に着工が翌年になることもあります。早めの発注が計画変更のリスクを抑えます。
フェーズ4:工事・試験・引き渡し
停電を伴う工事は、院内各部門・救急隊への事前調整が前提です。機器を据え付けたら、電気工事会社が絶縁抵抗測定や絶縁耐力試験、保護継電器の動作確認などの試験を行い、その結果を電気主任技術者が確認してから受電を再開します。電気事業法の工事計画の届出が必要な需要設備は、受電電圧が1万V以上のものの設置などに限られており(電気事業法施行規則 別表第二)、6,600Vで受電するキュービクル(需要設備)の更新は通常この届出の対象ではありません。工事計画の届出をして設置・変更する事業用電気工作物のうち省令で定めるものに課される「使用前自主検査」(電気事業法第51条)の対象にもなりません。竣工時の確認は、設置者が定める保安規程に基づく点検・検査として、電気主任技術者のもとで行います。自家発電設備を新設・変更する場合の手続きは、設備の内容に応じて別に確認します。試験から受電再開までの流れは、キュービクル更新工事の手順を解説した記事で確認できます。
停電時間を延ばすより、工期を延ばすという発想
ここが、病院の更新工事における最大のポイントです。
施設によっては、稼働を止められる時間にある程度の幅があり、現場で想定外が起きても、その時間内で対応を完了させられる場合があります。一方、病院ではその幅が極端に狭く、患者様の安全を守るために停電時間を無理に延ばすことが原則できません。
そのため、現場で想定外が発生した場合は、その日に無理やり完了させるのではなく、工事日程そのものを後ろ倒しにするという判断をとります。そのためには、作業を中断しても安全に受電を再開できるよう、中断できる工程や復旧の手順、中断を判断する時刻を事前に決めておくことが前提です。停電時間という“その日の制約”を絶対に守り、足りない作業は別日に回す。この発想の切り替えが、病院工事では欠かせません。
診療科・部門ごとの停電許容条件をどう整理するか
無理のない停電計画を立てるには、「どの部門が、どのくらいの停電なら許容できるのか」を事前に整理しておくことが出発点になります。
- 絶対に止められない設備:人工呼吸器、透析装置などは、自家発電設備・仮設電源・UPSなどでの給電継続を前提に計画する。
- 時間帯の調整が必要な機能:救急受け入れ、食事の調理・提供は、停止する時間帯と院内対応をあらかじめ決めておく。
- 曜日を選べる診療:透析のように、患者数の少ない曜日を狙うことで影響を抑えられる診療もある。
これらの情報は、病院の運営実態を最もよく知る病院側にしか整理できません。早い段階で電気工事会社へ共有いただくほど、無理のない停電スケジュールを逆算して設計できます。
恒電社が医療機関で行った工事では、さいたま市の医療機関での高圧ケーブル・高圧進相コンデンサ・LBSの交換とUASの設置(工期1日・停電7時間)で、自家発電機やUPSによる電源確保、電子カルテのデータ退避、精密機器の保護などを含めた停電計画を立てました。蓮田市の病院での高圧ケーブル更新(工期3日・停電4時間)では、空調を使わない季節の休診日の昼間に停電作業を設定しています。実際の段取りは、さいたま市の医療機関での高圧機器更新の施工事例と蓮田市の病院での高圧ケーブル更新の施工事例で確認できます。
停電できる日や時間帯がまだ決まっていない段階でも、現地調査で設備の状態と停電が必要な範囲を確認し、工事の段取りをご提案します。
見積もりの金額が会社ごとに違い、全体交換と部分更新のどちらが妥当か決められない段階で止まっていませんか。恒電社は現地調査で機器の状態と搬入の条件を確かめ、工事の範囲と内訳が分かる見積もりをお出しします。
電気工事士に聞く、病院における電気設備更新の現場事情
解説者
高橋 宏武
インタビュアー
岩見啓明
ーーー病院の高圧受電設備の更新工事で、ビルや工場、商業施設と大きく異なる点はどこですか?
一番は、停電が患者様の命に関わるという重さです。だから「工事の安全」だけでなく、それ以上に「患者様の安全・日常への影響を最小限にすること」を最優先で考えます。
停電が与える影響の範囲も広いです。まず、停電させると救急の受け入れができなくなるので、お客様には消防や関係機関に「この時間は受け入れできません」と通達してもらう必要があります。
また、院内の日常的な運用にも影響が出ます。たとえばエレベーターが止まるとストレッチャーや車いすでの「階をまたいだ移動」ができなくなります。同一フロアの移動はできても、上下の移動が一切遮断されてしまいます。
食事に関しても、冷蔵庫が止まることによる「食材の衛生・温度管理」は深刻な問題になります。さらに、病院では温かいものは温かく、冷たいものは冷たいまま運ぶ「温冷配膳車」を使ってまとめて各病棟へ食事を運ぶことが多いですが、エレベーターが止まると、これも使えなくなります。そのため、提供の時間や配膳ルートをどうするか、病院内でかなり綿密に調整してもらわないといけません。
院内の手続きは基本的に病院側で段取りを組んでもらいますが、我々はその前提を全部把握したうえで停電計画を立てる必要があります。
ーーー病院特有の「止められない設備」がある中で、どうやって停電を伴う工事を進めるのですか?
そもそも停電が一切できないような病院は、病院様が持っている自家発電機で対応してもらいます。予期せぬ停電に備えて、発電機を備えている病院は多いです。
それでも止められない診療はあります。たとえば先日、透析患者様がいらっしゃる病院で、透析が必要な患者様の少ない曜日を狙って工事日を設定しました。患者様ごと、診療ごとに事情が違うので、そこを読んで段取りを組んでいきます。
ーーー「自家発電機があるから停電しても大丈夫」と考えている病院も多いと思いますが、落とし穴はありますか?
確かに自家発電機をもっている病院は多いです。しかし、カバーできるのは生命維持に直結する系統が中心で、病院全体の電力をまかなえるわけではありません。また、備蓄している燃料の量にも限りがあります。
だからこそ「自家発電機があるから平気」ではなく、「どこに・どれだけ給電できるのか」を、こちらも事前にきちんと確認したうえで計画を立てる必要があります。
※発電機だけで、切り替わる間の瞬断を防げるとは限りません。救急の受け入れを止める必要があるか、発電機がどの範囲に給電できるかは、病院の設備と工事の範囲によって異なります。
病院特有の“想定外”
ーーー「すぐ終わる」と思っていた工事でも、現場で想定外の事態がおきたケースはありますか?
ありました。いざ作業を始めてみたら、新旧の機材でサイズが異なることが判明したケースです。追加の部品手配や加工が必要になり、当初の予定よりも大幅に時間がかかってしまいました。
普通の現場なら「停電時間を少し延ばして今日中に終わらせよう」とするところですが、病院ではそれができません。医療機器の稼働といった患者様の安全はもちろんですが、入院されている方の食事や入浴といった日々の生活スケジュールにも支障が出てしまうため、停電時間を無理に延ばすという選択ができないんです。
そのため、その日の工事は中断し、仕切り直して「来年」へ持ち越すという判断をしました。
ーーー翌週や翌月ではなく、「1年後」になったんですね。
そうです。電力会社・電気工事会社の調整に加え、さきほどの透析のように病院側での停電できる条件のそろう日時を押さえようとした結果、翌年になってしまった、という事情です。
どれだけ事前に計画を詰めても、工事に想定外はつきものです。そして、病院では「想定外が起きても停電時間は延ばさない」を最優先で貫きます。その結果として、工事日が翌年にずれ込むこともあります。これは計画の不備ではなく、患者様の安全を最優先したうえでの正しい判断だと考えています。
安全第一、それも患者様の命がかかっている安全だからこそ、譲れません。
都市部と地方で変わる難易度
ーーー埼玉県の病院と東京都の病院で、どんな差がありますか?
敷地面積のゆとりが工事の進行にも大きく関わってきますね。設置場所や工事の準備スペースが広く取れて、重機を簡単に据えられる環境であれば、工事は比較的スムーズに進みます。十分なスペースを確保できない場合は、別の手段を考えなければいけません。
病院は構造的にも特徴があって、ストレッチャーや車いすで患者様が移動されることを考えると、本来は上下移動が少ない方がいいんです。だから地方では、広い土地に2〜3階くらいで横に広く収める病院が多いんです。
一方、都内は敷地に限りがあることも多く、どうしても建物を高層化せざるを得ません。そうなると、停電工事中にエレベーターが使えない、ストレッチャーで階をまたいだ移動ができないといった影響が、地方の病院より大きく出やすくなります。
ーーー最後に、病院オーナー様が事前に準備しておくと工事がスムーズになる情報はありますか?
まずは設備の図面ですね。さきほどのブレーカーのサイズのように、図面と実態が食い違っていると、現場で想定外につながります。最新の図面と、既存設備の正確な仕様をご共有いただけると助かります。
そして、診療科ごとの「止められない設備」「止められる曜日・時間帯」の情報です。これは病院側にしかわからない情報なので、早くご共有いただくほど、患者様への影響が最も小さい停電スケジュールを逆算して設計できます。
まとめ
病院の電気設備更新は、停電が患者様の命に直結するという、他施設にない重い前提のもとで進める必要があります。
この記事のポイント 3点
- 病院では停電が人命に直結するため、「止められない設備」があることを前提に、自家発電設備・仮設電源・UPSなどで給電を続ける段取りが欠かせません。
- 「自家発があるから安心」とは限りません。給電範囲・燃料・自家発自体の劣化・切り替わるまでの時間差を把握したうえで計画を立てる必要があります。
- 病院では停電時間を無理に延ばさず、想定外が起きたら安全に受電を再開できる状態に戻して、工事日程のほうを後ろ倒しにするのが基本です。だからこそ事前の図面確認と診療科ごとの停電許容条件の整理が成否を分けます。
「24時間稼働する設備を止めずに更新できるのか」という不安から、更新を先送りにしてしまう病院は少なくありません。しかし老朽化した設備を放置するほど、突然の停電や故障というリスクは高まります。
恒電社では、各病院の医療機能の維持条件や自家発電設備の状況に合わせた工事計画の立案から施工まで、一貫して対応しています。まずはお気軽にお問い合わせください。
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電気主任技術者から更新を勧められたものの、来年に回してよいのか、今動くべきか決めかねている段階でもご相談いただけます。機器の納期と停電できる日から逆算して、発注と工事の時期をご提案します。
この記事を書いた人
岩見啓明




