更新日:2026年10月25日
「管理会社から高圧受変電設備(キュービクル)の更新を提案されたが、何から動けば良いのか分からない」——東京都内のマンション管理組合の方から、こうしたお悩みの声をよくいただきます。
費用の相場も分からなければ、停電が住民生活に与える影響も不安なまま。東京都内のマンションでも、敷地や前面道路、設備配置によって搬入・施工が難しくなる場合があります。
この記事では、高圧受変電設備の更新を管理組合として正しく進めるための手順と、相見積もりで損をしないための判断基準を、現場を知る電気工事士が分かりやすく解説します。
築年数の長いビルの電気設備更新の進め方や、ビルでの更新工事の事例もあわせて知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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要約
設備の寿命と放置による停電・賠償リスク
マンションの高圧受変電設備(キュービクル)の年数は、税法上の法定耐用年数(マンションのような工場以外の建物の受変電設備は15年)と、日本電機工業会(JEMA)が機器ごとに示す更新推奨時期(高圧配電用変圧器・高圧交流遮断器は20年、保護継電器・高圧進相コンデンサは15年など)を分けて考えます。故障した機器によっては交換品の手配に時間がかかり、停電が長引くおそれがあります。また、事故が電力会社の配電線に及ぶ「波及事故」になると周辺も停電し、損害賠償を求められる可能性もあるため、電気主任技術者から更新を勧められた段階で検討を始めることが大切です。
東京都内で注意したい搬入と施工の壁
東京都内のマンションでは、敷地や前面道路が狭いと、重量物である設備を吊り上げるクレーン車が進入できないことがあります。また、設備が屋上や地下に設置されていることもあり、共用廊下やエレベーターを通る際の床の耐荷重の確認や、傷を防ぐ養生の計画など、搬出入の段取りが欠かせません。そのため、契約後に想定外の追加費用やトラブルが発生しないよう、事前に搬入方法や養生計画を業者へ明確に確認しなければなりません。
金額だけに捉われない相見積もりの確認項目
複数の会社から相見積もりを取る場合は、金額だけでなく内容を比べることが大切です。「実際に施工する会社はどこか」「マンション特有の住民配慮や養生に慣れた実績があるか」「搬入方法や停電計画が具体的か」といった項目を確認します。さらに、住民への説明や合意形成、停電の範囲と時間の周知などを工事会社と連携して丁寧に行うことが成功の鍵となります。
マンションにおける高圧受変電設備(キュービクル)とは?
キュービクル式高圧受変電設備とは、電力会社から高圧(公称電圧6.6kV=6,600V)で受け取った電気を、マンション内で使う100V・200Vに変えて配電するための機器一式を、金属製の箱に収めた設備です。東京電力パワーグリッドの託送供給等約款では、契約電力が50kW以上2,000kW未満の場合、供給電圧は原則として標準電圧6,000Vの高圧とされています(受電設備を変更する場合などで、契約設備電力によって判断されることもあります)。
マンションでは、建物の規模や電気の引き込み方によって、キュービクルを設置している場合と、電力会社が設備を置く「借室(借室電気室)」から各住戸へ電気を送る場合などがあります。キュービクルが設置されている場合は、まず「電気の配分ルート」を確認しておく必要があります。これによって、更新工事で停電する範囲が大きく変わります。
共用部にのみ高圧受電を活用する方式
キュービクルを「エレベーターや共用灯、給水ポンプなどの共用部」のためだけに使う方式です。各住戸の電気は、住民がそれぞれ電力会社(小売電気事業者)と個別に契約して使います。
※この方式の場合、キュービクルの更新工事で停電するのは「共用部の設備」で、各住戸の電気は通常そのまま使えます。ただし、エレベーター、共用灯、オートロックなど共用部の設備は止まり、給水ポンプを使っている建物では水道が使えなくなることもあります。
高圧一括受電方式
共用部だけでなく、すべての住戸(部屋)の電気までマンション全体の電力を丸ごと高圧で一括して受電し、敷地内のキュービクルを通じて各部屋へ分配します。
※この方式の場合、キュービクル全体を更新する工事では、住戸内を含む「マンション全館」が停電の対象になります。実際の停電範囲は工事の範囲や仮設電源の有無によって変わるため、計画の段階で確認します。停電すると各部屋の中の冷蔵庫やエアコン、Wi-Fiなども停止するため、住民への事前の周知や緻密なタイムスケジュール管理が欠かせません。
一括受電のサービス会社を利用しているマンションでは、受変電設備の所有者や更新費用の負担が契約で決まっていることがあります。更新を検討する前に、まず契約内容を確認してください。
高圧受変電設備の寿命・放置した場合のリスクとは?
更新の目安:法定耐用年数と機器ごとの更新推奨時期
キュービクルの年数を考えるときは、税法上の「法定耐用年数」と、機器ごとの「更新推奨時期」を区別します。
法定耐用年数は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定められた、減価償却の計算に使う年数です。マンションのような工場以外の建物に附属する受変電設備は、建物附属設備の「電気設備(照明設備を含む。)その他のもの」として15年です。国税庁の耐用年数通達(2-2-2)では、工場以外の建物の「その他のもの」の例として、受配電盤・変圧器などの電気施設が挙げられています。法定耐用年数は税務上の年数で、機器が使えなくなる時期や、安全に使える期間を示すものではありません。
機器ごとの更新の目安としては、日本電機工業会(JEMA)が「汎用高圧機器の更新推奨時期に関する調査」報告書(2023年3月改訂版)で、次のような更新推奨時期を示しています。
- 高圧配電用変圧器:20年
- 高圧交流遮断器(VCBなど):20年、または規定開閉回数
- 保護継電器・高圧進相コンデンサ・計器用変成器・避雷器:15年
- 高圧交流負荷開閉器(LBS・UGS・UASなど):屋内用15年・屋外用10年、または定格負荷電流開閉回数200回(GR付開閉器の制御装置は10年)
JEMAの屋内用・屋外用は、設置場所ではなく、屋外での使用を前提とした構造かどうかという機器の仕様による区分です。お使いの機器がどちらに当たるかは、銘板や仕様書で確認します。
JEMAの更新推奨時期は、メーカーが機能や性能を保証する期間ではありません。通常の環境で通常の保守・点検を行って使った場合に、部材の老朽化などから、新品に替えたほうが経済性を含めて一般的に有利と考えられる時期です。法律で決まった交換期限でもないため、点検結果とあわせて判断します。法定耐用年数と更新推奨時期の違い、機器ごとの目安の比較は、キュービクルの耐用年数と更新推奨時期を解説した記事で詳しく紹介しています。
年数が進むと、メーカーによっては部品の供給が終了していることもあります。「壊れてから交換しよう」と考えていると、故障した機器によっては交換品の手配に時間がかかり、停電が長引くおそれがあります。キュービクルや高圧ケーブルの納期が長くなる理由は、東京の高圧電気設備工事の納期と費用を解説した記事で詳しく紹介しています。
放置すると「波及事故」のリスクがある
老朽化したキュービクルで起きた事故を構内で切り離せないと、事故が電力会社の配電線に及び、周辺の住宅や事業所も停電する「波及事故」になることがあります。電気設備に関する技術基準を定める省令(第18条)は、高圧の電気設備を、その損壊によって一般送配電事業者などの電気の供給に著しい支障を及ぼさないように施設することを求めています。波及事故を起こすと、周辺への損害賠償を求められる可能性もあります。
また、高圧で受電するキュービクルは自家用電気工作物にあたります。電気事業法により、設置者(管理組合など、設備を設置する者)は保安規程を定めて届け出ること(第42条)と、電気主任技術者を選任すること(第43条)が求められます。一定の要件を満たす場合は、保安管理業務の委託契約を結んで国の承認を受けることで、電気主任技術者を選任しない方法(外部委託承認制度)もあります。月次点検や年次点検の報告書で「更新推奨」の指摘があれば、更新の検討を始めましょう。
キュービクルの役割や種類、サイズの目安を基本から知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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東京都のマンションで注意したい「搬入」「施工」2つの壁
東京都内のマンションで高圧受変電設備を更新する際に注意したいのが「搬入・施工環境の難しさ」です。この2つの壁を理解しておくことが、業者選定や見積もり精査の前提になります。
壁①:狭小地・前面道路が細い(レッカー車が入れない問題)
都心部のマンションは、敷地が狭く前面道路も細いことがあります。キュービクルは重量物のため、通常はクレーン車で吊り上げて搬入・搬出します。しかし都内の過密エリアでは、そもそもクレーン車が入れないことがあります。公道にクレーン車を置いて作業する場合は、所轄の警察署長の道路使用許可(道路交通法第77条)が必要です。交通誘導員は、許可の条件や現場の交通状況に応じて手配します。
見積もりの段階で「どうやって搬入するのか」を各社に明確に確認することが重要です。搬入方法が曖昧なまま契約すると、後から追加費用が発生するトラブルになりかねません。
壁②:屋上・地下への設置(搬出入ルートの確保と養生)
東京都内のマンションでは、キュービクルや電気室が屋上や地下に設置されていることがあります。こうした環境では、搬出入ルートの計画が工事の難易度を大きく左右します。
共用廊下・エントランス・エレベーターを通じて搬入する場合は、床や舗装(インターロッキングなど)の耐荷重を確認します。また植栽の保護や共用部の養生(傷・汚れを防ぐための養生シートの敷設など)も欠かせません。こうした配慮を怠ると、マンションの共有財産を傷つけるリスクがあります。
工事会社に「養生計画を事前に提示してもらえるか」を確認することをおすすめします。
地下の電気室でトランス2台を交換した事例(東京都国立市)と、周囲に建物が建ってキュービクルの搬出・搬入が難しかったテナントビルの交換事例(埼玉県久喜市)は、以下の施工事例で紹介しています。
▼搬出が難しい場所の施工事例
総会決議から工事当日まで!管理組合の正しい進め方【5ステップ】
管理組合として高圧電気設備の更新を進める際の流れを、5つのステップで整理します。
STEP1:電気主任技術者へのヒアリングと現状把握
まず、自マンションの電気主任技術者(保安管理業務を外部に委託している場合は委託先)に、点検報告書をもとに現状を確認してもらいます。
電気主任技術者や委託先は、月次点検・年次点検を通じて設備の状態を継続的に把握しているため、「いつ頃更新が必要か」「どの部品が特に劣化しているか」という具体的な指摘を得ることができます。この段階で「更新推奨」の指摘があれば、次のステップに進む根拠になります。
STEP2:電気工事会社への相見積もり取得と費用精査
電気工事会社に現地調査を依頼し、見積もりを取得します。複数の会社から相見積もりを取る場合は、金額だけで比べず、以下の項目を確認してください。
| 確認項目 | なぜ重要か |
|---|---|
| 実際に施工する会社はどこか(自社施工か、協力会社への委託か) | 発注が何層にも重なると、責任の所在や現場への指示が分かりにくくなりやすいため |
| マンションの施工実績があるか | 住居設備ならではの配慮(養生・停電管理等)に慣れているかの判断基準 |
| 搬入方法が明記されているか | クレーン車や交通誘導員など、後から追加費用が発生するトラブルを防ぐため |
| 停電時間の計画が具体的か | 住民・テナントへの影響を事前に把握するため |
| 工事後の保証・アフターフォロー体制 | 引き渡し後のトラブル対応を確認するため |
費用は、設備の規模・設置場所・搬入条件によって大きく異なります。キュービクルの本体価格と工事費の内訳、容量別の施工事例は、キュービクルの価格・費用相場を解説した記事で紹介しています。
見積もりの金額は、長期修繕計画の予算と照らし合わせ、必要に応じて修繕の優先順位を管理組合で見直してください。
STEP3:住民への周知と合意形成(総会や理事会での決議)
工事費用・工期・停電の影響が固まったら、管理規約に定める手続きに従って、理事会や総会で工事の実施を決めます。修繕積立金を工事費に充てる場合などに、どの決議が必要になるかは、管理規約で確認してください。あわせて、住民説明会や掲示で工事内容を周知し、事前に十分な情報提供を行って、住民の理解を得てから進めます。
STEP4:工事計画の策定と停電範囲・スケジュールの確定
電気工事会社とともに、停電する範囲(共用部だけか、住戸を含む全館か)とタイムスケジュールを確定させます。エレベーター・給排水ポンプ・オートロック・インターホンなど、停電中に使用できなくなる設備を網羅的に洗い出したうえで、住民への周知文書を作成します。
停電時間は、工事の範囲や設置条件によって変わります。恒電社が担当したテナントビルのキュービクル交換工事では、工期1日・停電時間5時間で完了した例があります。停電時間帯の選定(平日の日中・休日など)も住民への影響を小さくするうえで重要な判断になるため、電気工事会社と管理組合で十分に協議してください。停電時間を短くするための準備は、停電時間を短くする事前準備と現場対応を解説した記事で紹介しています。
STEP5:工事の実施と受電再開前の試験・確認
工事当日は電気工事会社が施工を進めます。機器の据付・結線のあと、絶縁抵抗測定や保護継電器の試験などを行い、電気主任技術者(保安管理業務を外部に委託している場合は委託先)が保安規程に基づいて確認したうえで受電を再開します。電力会社の停電作業が必要な工事では、電力会社の作業員が開閉器の操作などを行います。電力会社への申込から停電当日までの流れは、キュービクル更新工事の流れと手順を解説した記事で詳しく紹介しています。
見積もりの金額が会社ごとに違い、全体交換と部分更新のどちらが妥当か決められない段階で止まっていませんか。恒電社は現地調査で機器の状態と搬入の条件を確かめ、工事の範囲と内訳が分かる見積もりをお出しします。
電気工事士に聞く、東京都内のマンションでの高圧電気設備更新の特徴
解説者
高橋 宏武
インタビュアー
岩見啓明
ーーーマンションならではの、高圧電気設備工事の特徴はありますか?
マンションの場合、受変電設備がキュービクル(屋外設置型の箱型設備)ではなく、建物内の電気室に設置されているケースが多く見られます。そういった場合、工場や屋上設置型の施工方法とは異なる進め方が必要 です。
※キュービクル(キュービクル式高圧受電設備)には屋外用と屋内用があり、建物内の電気室に設置されることもあります。
また、共用部と各住戸とで受電を分けているマンションも少なくありません。この場合、電力会社が管理する「借室」と、マンション側が管理する通常の電気室とが別々に存在する形になります。
※ここでは、各住戸への供給に電力会社の借室を利用しているケースを説明しています。実際の受電方式と設備の配置は、建物ごとに確認してください。
ーーーその場合、各部屋への配電は、どのように行われているのでしょうか?
電力会社の借室内に設置された受変電設備で電気を分配し、各部屋へ送る仕組みになっています。契約についても、マンション側が一括して結ぶのではなく、各住民の方が個別に電力会社と契約を結ぶ形になります。
ーーーマンションの電気設備工事における特徴として、他にも何かありますか?
高圧電気設備の更新においてマンション特有の難しさが生じるのは、技術面だけではありません。むしろ「住民の皆様への説明と合意形成」という点に、独自の難しさがあると感じています。
これまでの経験上、更新工事そのものに反対されるケースはほとんどありません。一方で、「まだ普通に使えているのに、なぜ交換が必要なのか」というご質問は、多くのマンションで共通してよく挙がる声です。
「設備の耐用年数を超過している」という事実だけをお伝えしても、住民の皆様にはなかなか実感していただけないのが実情です。そこで効果的なのは、耐用年数の話を「生活への影響」という形に翻訳してお伝えすることです。
私たちとしては、停電時の生活への支障や復旧までの時間といった具体的な影響を踏まえながら、管理組合のご担当者様に更新の必要性をご説明させていただいています。
まとめ
この記事のポイントは以下の3点です。
- キュービクルの年数は、法定耐用年数(工場以外の建物の受変電設備は15年)と、機器ごとの更新推奨時期(JEMAの目安で変圧器・遮断器は20年など)を分けて考えます。波及事故になると周辺も停電し、損害賠償を求められる可能性もあります。電気主任技術者から更新を勧められた段階で早めに動くことが大切です。
- 東京都内のマンションでも、敷地や前面道路、設備配置によって搬入・施工が難しくなる場合があり、「クレーン車が入れない」「屋上・地下設置で養生が必要」といった現場固有の課題があります。技術力と段取り力のある工事会社の選定が、工事の成否を左右します。
- 相見積もりでは金額だけでなく、「実際に施工する会社はどこか」「マンションの施工実績があるか」「搬入方法が明記されているか」「停電の範囲と時間の計画が具体的か」を確認してください。
恒電社では、マンションの高圧受変電設備について、現地調査から更新のご提案・工事まで承っています。「電気主任技術者から更新を勧められた」「搬入できるか、停電がどのくらいになるかだけでも知りたい」という段階でも構いません。月次・年次点検などの保安管理は電気主任技術者(または委託先)の業務のため、点検報告書をお手元にご用意いただくと、ご相談がスムーズです。
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電気主任技術者から更新を勧められたものの、来年に回してよいのか、今動くべきか決めかねている段階でもご相談いただけます。機器の納期と停電できる日から逆算して、発注と工事の時期をご提案します。
この記事を書いた人
岩見啓明







