更新日:2026年10月9日
工場やビルで高圧の電気を受けている建物は、電柱や地中を通る電線(配電線)で電力会社とつながっています。同じ配電線には、近くの工場や店舗、住宅などもつながっています。
波及事故とは、自社の受電設備(キュービクルなど)で起きた事故が電力会社の配電線にまで広がり、近くの建物まで停電させてしまう事故です。国の統計では、事故が近くの建物まで広がった理由の約7割が、「事故のときに自社の設備を切り離す開閉器(区分開閉器)が動かなかった」か「区分開閉器が付いていなかった」ことでした。
この記事では、波及事故とは何か、なぜ近くの建物まで停電するのかを、専門用語をできるだけ使わずに説明します。そのうえで、恒電社が波及事故を防ぐために行った工事を、施工事例7件で紹介します。
要約
波及事故は、自社の設備の事故で近くの建物まで停電させる事故
高圧で電気を受けている設備の事故が電力会社の配電線に広がると、同じ配電線につながる建物も停電します。法律で、国への報告の対象になっている事故です。
広がった理由は、区分開閉器が「動かなかった」「付いていなかった」が約7割
令和6年度の国の統計では、工場やビルの受電設備などで起きた波及事故は193件でした。事故が起きた場所はケーブルが112件で最も多く、区分開閉器(PAS)が34件で続きます。
防ぐ工事は、区分開閉器と高圧ケーブルの新設・更新が中心
恒電社の施工事例では、区分開閉器のない建物への新設、古くなった区分開閉器の更新、高圧ケーブルの更新などを行っています。工事の時期と範囲は、保安を担当する電気主任技術者の点検結果をもとに決めます。
この記事で使う言葉
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 配電線 | 電柱や地中を通って、電力会社から建物へ電気を送る電線です。近くの建物と共用しています |
| キュービクル(受電設備) | 電力会社から受けた高圧の電気を、建物で使える電圧に下げる設備です |
| 区分開閉器(PAS・UGS・UAS) | 電力会社の配電線と自社の設備の境目の近くに付ける開閉器です。自社側で事故が起きたときに、自社の設備を配電線から切り離します。電柱の上に付けるものがPAS、地中の電線で電気を受ける建物で使うものがUGSやUASです |
| SOG制御装置 | 区分開閉器と組み合わせて使う装置です。事故を検出して、区分開閉器を開かせます |
| 地絡(ちらく) | 電気が電線から地面や機器の金属部分へ漏れることです |
| 短絡(たんらく) | 電線どうしが触れるなどして、大きな電流が流れることです。いわゆるショートです |
| 電気主任技術者 | 受電設備の工事や点検で、安全を監督(保安)する人です。お客様が選任します。条件を満たし、国の承認を受けて外部に任せる場合は、外部の委託先が担当します |
波及事故とは
法律(電気関係報告規則 第3条)では、次のような事故を、国(電気の安全を担当する経済産業省の地方機関、産業保安監督部)への報告の対象としています。この事故を一般に「波及事故」と呼びます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象の設備 | 電力会社の配電線などにつながっている、電圧3,000V以上の自家用の電気設備(高圧で電気を受けているキュービクルなど) |
| 原因 | 設備が壊れた、操作を誤った、操作すべきときに操作しなかった |
| 結果 | 電力会社などの電気の供給に支障を起こした |
波及事故を起こしたときは、設備の設置者が国に報告します。設置者には、設備の持ち主のほか、設備を全て借りて管理している人や会社が当てはまる場合もあります。事故を知った時から24時間以内に、可能な限り速やかに電話などで第一報を入れます。そのうえで、知った日から30日以内に報告書を出します。原因が雷などの自然現象のときは、報告書は要りません。手続きは、保安を担当する電気主任技術者と相談して進めます。
自社の事故で、近くの建物まで停電する仕組み
区分開閉器は、自社側で事故が起きたときに、自社の設備を配電線から切り離します。地絡の事故を、電力会社側の遮断器が動くより先に区分開閉器で切り離せれば、停電は自社の建物だけで済みます。短絡の事故では、あとで説明するように、近くの建物が一時的に停電することがあります。
自社の設備で事故を止められず、電力会社の変電所にある遮断器(電気を止める装置)が働くと、同じ配電線につながる近くの建物も停電します。

※短絡の事故では、区分開閉器が正常に切り離しても、近くの建物が一時的に停電することがあります(このあと説明します)。
次のような場合に、波及事故になりやすくなります。
- 区分開閉器が付いていない
- 付いていても、事故を見つける装置(保護継電器)の不良などで動かなかった
- 区分開閉器そのものが壊れた
- 事故の場所が区分開閉器より電力会社側(区分開閉器では切り離せない範囲)だった
事故が起きたときの区分開閉器の動き方は、事故の種類によって違います。区分開閉器メーカーの戸上電機製作所の説明では、地絡のときは、決められた条件を満たせばすぐに開きます。短絡などで大きな電流(ロック電流値以上)が流れたときは、いったん閉じたままの状態を保ちます。そして、電力会社側の遮断器が電気を止めてから開きます。
そのため短絡の事故では、区分開閉器が正常に働いても、近くの建物が一時的に停電することがあります。自社のキュービクルの遮断器などで、先に事故を止められなかった場合です。区分開閉器が自社の設備を切り離したあと、電力会社の配電線に自動で電気が戻れば、国の統計では波及事故に数えません。
区分開閉器の役割と、電力会社との責任の境目(責任分界点)は、責任分界点とPAS・UGSの役割を解説した記事にまとめています。
統計で多い波及事故の原因
経済産業省などがまとめた令和6年度の電気保安統計(令和8年3月公表)では、自家用の電気設備からの波及事故は197件でした。そのうち193件が、工場やビルの受電設備などで起きています。原因が雷などの自然現象の事故と、電力会社の配電線に自動で電気が戻った場合は、この件数に入っていません。

| 見方 | 多いもの(193件の内訳) |
|---|---|
| 事故が起きた場所 | ケーブル112件、区分開閉器(PAS)34件 |
| 原因 | 点検や手入れの不足・自然な劣化(保守不備)107件、作業者のミスなど(故意・過失)37件、鳥や動物、木などが触れた(他物接触)20件 |
| 近くの建物まで広がった理由 | 区分開閉器が動かなかった83件(うち保護継電器の不良50件)、区分開閉器が付いていなかった55件、区分開閉器そのものの破損や誤操作など43件 |
統計の資料は、点検や手入れの不足・自然な劣化による事故では、ケーブルの事故が多いことを挙げています。また、操作の誤りの例として、安全のための器具(短絡接地器具)を付けたまま区分開閉器を入れたケースや、事故で開いた区分開閉器を、原因を取り除かないまま入れ直したケースが挙がっています。
関東東北産業保安監督部の管内(関東1都6県と山梨県、静岡県の富士川より東)では、令和7年度に67件の波及事故が起きています。原因は、点検や手入れの不足・自然な劣化(保守不備)が70.1%で最も多くなっています。
波及事故を起こしたときの影響
波及事故では、自社の建物に加えて、同じ配電線につながる近くの建物も停電します。関東東北産業保安監督部は、令和7年度の事故のまとめで「波及事故については、近隣事業者等より停電の影響により生じたとされる多大な損害賠償請求がなされるケースもあります」と注意を呼びかけています。
自社の建物も、壊れた機器を交換するまで電気を使えないことがあります。高圧の機器は在庫が限られ、交換には電力会社との調整や停電の日程の確保が必要です。復旧までに時間がかかる理由は、記事後半の「電気工事士に聞く」で恒電社の電気工事士が話しています。
関東東北産業保安監督部は、事故を防ぐ対策として次の3つを挙げ、電気主任技術者と相談して計画的に設備を更新するよう求めています。
- 地絡を検出する装置が付いた区分開閉器(GR付PAS、UGS)の設置
- 水の影響を受ける場所の高圧ケーブルを更新するときは、「E-Eタイプ」または「E-Tタイプ」(高圧ケーブルの構造の種類を表す呼び方)の品質の説明を踏まえて選ぶ
- 受電設備に小動物や雨風・雪が入らないようにする対策
区分開閉器や高圧ケーブルの更新では、電力会社との調整と停電の日程の確保が必要です。恒電社は、電気主任技術者の点検結果を踏まえて、電力会社への申請と停電日の調整を含めたPAS・UAS(UGS)の工事を行っています。
恒電社が波及事故を防ぐために行った工事(施工事例)
恒電社がこれまでに行った工事のうち、波及事故の防止に関係する7件を紹介します。キュービクルの更新にあわせたPASの新設や、使用年数がたった機器の更新などです。それぞれ、ご相談の内容と行った工事、波及事故を防ぐうえでの意味を説明します。自社の設備と近い事例があれば、工事の内容や停電時間の参考にしてください。
| 事例 | 行った工事 | 波及事故を防ぐうえでの意味 |
|---|---|---|
| 1. 埼玉県所沢市・ビル(屋上) | キュービクルの更新にあわせてPASを新設 | 構内の地絡事故などに備え、波及事故のリスクを下げた |
| 2. 茨城県・食品工場 | PASとSOG制御装置を更新 | 波及事故の防止に向けて、PASとSOG制御装置を新しくした |
| 3. 埼玉県熊谷市・工場 | 事故の方向を見分けるPASと、小さな漏れを検出する機能付きのSOG制御装置へ更新 | 構外の事故で自社のPASが不要に開くことを防ぐ |
| 4. 埼玉県三郷市・工場 | PASと高圧ケーブルを故障前に更新 | PASと高圧ケーブルを、故障する前に計画的に新しくした |
| 5. 東京都港区・ビル | UGSをUASに取り換え、高圧ケーブルも更新 | 地中の配管を通るケーブルと区分開閉器を、まとめて新しくした |
| 6. 埼玉県久喜市・古紙リサイクル施設 | 避雷器付きのPASに更新し、アース棒を新しく打った | 雷への備えを強めた |
| 7. 埼玉県蓮田市・物流センター | 2日に分けて、PAS・高圧ケーブル・キュービクル内の機器を更新 | 区分開閉器とあわせて、キュービクル内で電気を止める機器も新しくした |
1. キュービクルの更新にあわせて、PASを新設した事例
ご相談の内容
埼玉県所沢市のビルのお客様から、変圧器の省エネ基準(トップランナー基準)が新しい基準に移行する前に、変圧器を更新したいとご相談をいただきました。
行った工事
キュービクルを更新し、あわせて波及事故への備えとしてPASを新設しました。屋上のキュービクルの搬出入にはクレーンを使い、工期は1日、停電時間は8時間でした。
波及事故を防ぐうえでの意味
構内の地絡事故などに備えてPASを新設し、波及事故のリスクを下げる工事です。区分開閉器を新しく付けることは、統計で2番目に多い理由「区分開閉器が付いていなかった」(55件)への備えになります。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

埼玉県 所沢市・ビル(屋上)
2. 使用年数がたったPASとSOG制御装置を更新した事例
ご相談の内容
茨城県の食品工場で高圧設備の保守を担当する電気主任技術者様から、波及事故を防ぐために、使用年数がたったPASとSOG制御装置を更新したいとご依頼をいただきました。
行った工事
PASとSOG制御装置を更新しました。食品工場は停電が生産ラインや冷蔵設備に直結するため、工場の休業日に停電して、1日で工事を終えています。
波及事故を防ぐうえでの意味
統計で最も多い理由は「区分開閉器が動かなかった」(83件)で、そのうち50件は保護継電器の不良です。一般的な更新の目安として、日本電機工業会の資料では次のようにしています。SOG制御装置(GR付開閉器の制御装置)は使い始めてから10年です。屋外用の区分開閉器(高圧交流負荷開閉器)は、使い始めてから10年、または定格の電流での開閉が200回です。これは、ふつうの環境でふつうの点検をしながら使った場合の目安で、メーカーの保証や法律で決まった交換期限ではありません。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

茨城県・食品工場
3. 事故の方向を見分けるPASと、小さな漏れを検出するSOG制御装置に更新した事例
ご相談の内容
埼玉県熊谷市の工場で、PASとSOG制御装置の更新のご依頼をいただきました。
行った工事
「方向性」のPASに更新しました。SOG制御装置には、PASが動く値に満たない小さな地絡(微地絡)を検出する機能が付いています。工期は1日でした。
波及事故を防ぐうえでの意味
方向性のPASは、地絡が自社の構内で起きたのか、構外(電力会社側)で起きたのかを見分けます。構外の地絡で自社のPASが不要に開くことを防ぐため、近くの地絡事故のあとに自社だけ電気が戻らない状態を減らせます(設定が適切で、正常に動くことが前提です)。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

埼玉県 熊谷市・工場
4. PASと高圧ケーブルを、故障する前に計画的に更新した事例
ご相談の内容
埼玉県三郷市の工場から、築20年を迎えるのを前に、使用年数がたったPASと高圧ケーブルを更新したいとご相談をいただきました。故障してから直すと、修理の費用に加えて、生産が止まる損失や、復旧までの時間が大きくなるおそれがあるためです。
行った工事
故障する前に計画的に直す「予防保全」として、方向性のPASと高圧ケーブルを更新しました。日曜日に工事を行い、工期は1日、停電時間は8時間でした。
波及事故を防ぐうえでの意味
統計では、事故が起きた場所はケーブルが最も多く報告されています(112件)。この工事では、予防保全としてPASと高圧ケーブルを更新しました。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

埼玉県 三郷市・工場
5. 地中で電気を受けるビルで、UGSをUASに取り換え、高圧ケーブルも更新した事例
ご相談の内容
東京都港区の7階建てのビルは、工事前は、地上に置いたUGSから屋上のキュービクルまで、高圧ケーブルを引き込む構造でした。使用年数がたったUGSと高圧ケーブルを更新したいとご相談をいただきました。
行った工事
高圧ケーブルを更新し、UGSを方向性のUASに取り換えました。営業中の店舗があったため、停電は5時間に収めました。
波及事故を防ぐうえでの意味
地中の配管の中を通るケーブルは、外から見て状態を確かめにくいため、通っている場所の環境や、電気主任技術者による点検・診断の結果を踏まえて更新を検討します。関東東北産業保安監督部も、水の影響を受ける場所の高圧ケーブルの選び方を、事故を防ぐ対策に挙げています。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

東京都 港区・ビル
6. 避雷器付きのPASに更新し、アース棒を新しく打った事例
ご相談の内容
埼玉県久喜市の古紙リサイクル施設で、PASの更新のご相談をいただき、雷から高圧設備を守る避雷器が付いたPASを使うことになりました。避雷器には、雷の電気を地面に逃がすアース(接地)が必要で、国の基準ではアースの抵抗値を10Ω以下とすることが基本です(電気設備の技術基準の解釈 第37条)。
行った工事
避雷器付きのPASに更新し、あわせて避雷器用のアース棒を新しく打ちました。抵抗値を測り、5.8Ωであることを確かめています。停電しない事前の工事と停電する工事の2日に分け、停電時間は4時間でした。
波及事故を防ぐうえでの意味
雷などの自然現象が原因の波及事故は、平成28年度以降、国の統計の件数に入っていません。北海道産業保安監督部の令和3年度の資料は、管内の2012〜2021年度の波及事故で、区分開閉器の事故の原因の約75%が自然現象だったとまとめています。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

埼玉県 久喜市・古紙リサイクル施設
7. PAS・高圧ケーブルとキュービクル内の機器を、2日に分けて更新した事例
ご相談の内容
埼玉県蓮田市の物流センターでは、電気主任技術者様を通じて「翌年の年次点検に合わせて高圧機器を更新したい」とご相談をいただきました。対象は、PAS、高圧ケーブル、キュービクル内のVCB(真空遮断器)、過電流継電器(OCR)、高圧進相コンデンサ、VT、CTです。
行った工事
工事は2回に分けました。1回目は電力会社との連携が必要なPASとケーブルの工事、2回目はキュービクル内の機器の更新です。1回目は2班で、2か所のPASとケーブルを同じ日に半日で更新しました。停電できない区画には発電機で電気を送り、工事は日曜日の2日間に分けて行いました。
波及事故を防ぐうえでの意味
構内で大きな電流が流れたときは、OCRがそれを検出して「止めて」という指令を出し、VCBが電気を止めます。恒電社の電気工事士は、キュービクルの中では継電器と遮断器を優先して更新を検討すると話しています(次の「電気工事士に聞く」で紹介します)。
工事の様子と手順は、施工事例のページで紹介しています。

埼玉県 蓮田市・物流センター
電気工事士に聞く、波及事故と設備の更新
恒電社の電気工事士が、過去のインタビューで波及事故や区分開閉器、更新の優先順位について話した内容を、公開済みの記事から原文のまま紹介します。
発言に出てくる言葉の意味は次のとおりです。LBS(高圧交流負荷開閉器)は、キュービクルの中で電気を入れたり切ったりする開閉器です。パンク(絶縁破壊)は、ケーブルなどの電気を通さない部分が壊れて、電気が漏れてしまうことです。ここでいう継電器(リレー)は、異常を見つけて、遮断器や開閉器に電気を止める指令を出す装置(保護継電器)のことです。
PASが一般的になった現場で、PASを動作させる事故
回答:高橋 宏武(恒電社 エンジニアリング事業部 事業部長)。出典:PAS(高圧気中負荷開閉器)とは?役割・SOGとの関係・交換時期の目安を電気工事士が解説【設備オーナー向け】
ーーー近隣設備のトラブルが原因で自社が停電する「波及事故」の事例を聞いたことはありますか?
これまでの現場経験では、波及事故が問題になるケースはほとんどありません。これは現在ではPASの設置が一般的になり、事故の切り分けが適切に行われていることが大きいと思います。
では、PASを動作させる具体的な例としては、意外と多いのが小動物による地絡事故です(前の記事でも説明しています)。この場合、設備側にも焦げや損傷が発生し、機器交換が必要になるケースもあります。
※この回答は恒電社の現場での経験です。全国では、令和6年度に需要設備で193件の波及事故が起きています(前述の電気保安統計)。
ーーーPAS本体が原因となるトラブルもあるのでしょうか?
あります。最も多いのは、経年劣化による絶縁不良です。
PASは屋外に設置される設備なので、長期間使用していると防水・絶縁性能が低下し、内部に水が浸入することがあるんです。その結果、絶縁性能が落ちて、異常動作や事故につながるケースもあります。
PASがない建物で起きた事故
回答:高橋 宏武(恒電社 エンジニアリング事業部 事業部長)。出典:責任分界点とは?どこにあるか、財産分界点との違いとPAS・UGSの役割
ーーー実際にPASがないことで起きた事故には、どのようなものがあるのでしょうか?
カラスの営巣や、ケーブル・トランスの経年劣化による絶縁破壊(パンク)などいくつかの原因があります。現場の感覚で言うと、意外と多いのは小動物が原因の事故ですね。
キュービクルの中は、小動物にとって暖かくて雨風もしのげる場所なんです。特に蛇は変温動物なので、寒い時期になるとキュービクルの中に入ってくることがあります。ネズミもよく入り込むことがありますね。
キュービクルの中には、LBSなどの充電部(電圧がかかっている部分)がむき出しになっている箇所があります。小動物が盤内を動き回っているうちに、電線の受電部分とキュービクルの金属部分、両方に同時に触れてしまい、それが原因で地絡事故が発生することがあります。
その場合、動物はほぼ確実に感電死し、設備側も焦げや損傷が発生します。接触した部分の機器は、交換が必要になることもあります。そのような事故が起きた際、PASの設置があればそのビルの停電だけで済みますが、未設置の場合、近隣への停電影響も出てしまいます。
※この説明は、地絡継電装置付きの区分開閉器(GR付PAS等)が保護するお客様側の範囲で地絡事故が起き、電力会社側との保護協調が確保されて機器が正常に動作した場合のものです。未設置の場合は波及事故のおそれが高まるという趣旨で、必ず近隣が停電するという意味ではありません。動物による事故の説明は現場経験にもとづくものです。
予算が限られるときの更新の優先順位
回答:高橋 宏武(恒電社 エンジニアリング事業部 事業部長)。出典:【高圧設備更新の準備 #1】点検報告書の読み方|「要注意」と言われたら何をすべき?
同じインタビューで、高橋は更新の優先順位について「予算の都合でどうしても順序をつけなければならない場合は、PAS・UGS・高圧ケーブルを優先的に検討することが多いです。」と話しています。続く質問への回答です。
ーーー波及事故防止の観点から、区分開閉器が重要なのは分かりやすいですが、高圧ケーブルが優先される理由をもう少し詳しく教えていただけますか?
高圧ケーブルのトラブルは、最終的にパンク(絶縁破壊)として現れます。これは停電に直結するため、優先順位も高くなるんです。
パンクの主な原因は「水分の影響や、端末処理部分の劣化、物理的な損傷」などが挙げられます。詳細はこちらの記事でご説明したとおりです。
ーーー「波及事故を防ぐ」という観点で優先順位が決まるんですね。では、キュービクル内での優先順位を考えるとどうでしょうか?
キュービクル内だとまずは継電器(リレー)と遮断器です。この2つは保護装置として、事故が起きたときに電気を止める重要な役割を担います。
継電器・遮断器が正常に動いていれば、他の機器に不具合があっても事故の拡大を防ぐことが可能です。そのため、まずは「確実に止められるか」が優先されます。
※保護装置で事故の拡大を防げるかは、事故の種類・発生位置・保護範囲・整定によって異なり、上位の保護装置との保護協調も必要です。
古い設備のまま事故が起きたときの復旧
回答:高橋 宏武(恒電社 エンジニアリング事業部 事業部長)。出典:築30年超のビル・マンションの電気設備、何から手をつける?|機器別の更新推奨時期と優先順位【東京都内オーナーさま向け】
ーーー仮に、古いままの設備を放置しておいたことが原因で、停電事故が発生してしまった場合、駆けつけ工事が出来ないなどの事態も発生しうるのでしょうか?
十分にあり得る話です。まず大前提として、電気工事(特に高圧設備)を担う会社自体が年々減少しており、いざ停電事故が起きてから対応できる業者を探そうとしても、すぐに見つからないケースが増えています。
仮に対応可能な電気工事店が見つかったとしても、今度は部材の調達という壁にぶつかります。開閉器や遮断器といった高圧設備の部材は在庫を抱えている会社は限られており、発注してから手元に届くまでに数日から数週間かかることも珍しくありません。
さらに、トランスやキュービクル全体の更新となれば、発注から納品まで半年以上を要するため、停電が長期化し、マンションであればその間の生活、オフィスビルであれば生産停止や業務への影響は計り知れません。
※機器の納期は、時期・機種・メーカーによって変わります。機器の納期と停電が続く期間は、仮復旧ができるかどうかなどによって異なります。
さらに、部材が揃ったとしても、工事自体が一筋縄では進みません。ビルやマンションの高圧設備更新にはクレーン車が必要になることが多く、工場の敷地内で完結する工事とは違い、公道に車両を設置する場合は道路の使用許可を取得し、通行を一部規制した上で交通整理員を手配する必要があります。
※通行規制や交通誘導員の配置は、現場の条件や道路使用許可の条件に応じて決まります。
こうした手続きには相応の時間がかかるため、「設備が壊れたから今日明日で直してほしい」という要望には、現実的に応えられないことが多いのです。
つまり、老朽化した設備を放置したまま停電事故が発生すると、業者探し・部材調達・工事の実施という複数の段階でボトルネックが重なり、復旧までに想定以上の時間を要するリスクがあるということです。
※会社数の減少や、対応できる業者を確保しにくいケースの増加は、回答者の現場経験にもとづく説明です。この記事では、これらの推移を裏づける統計は確認していません。
自社の設備で確認したいこと
波及事故の原因になりやすい設備の状態は、点検報告書や設備の図面、機器の銘板で確認できます。次のことを、保安を担当する電気主任技術者に聞いておくと、更新が必要かどうかや、どれから直すかを相談しやすくなります。
| 聞いておくこと | 確認に使う資料など |
|---|---|
| 区分開閉器(PAS・UGS・UAS)が付いているか | 設備の図面(単線結線図)、電柱や引込口の現地確認 |
| 付いている区分開閉器が、地絡を検出する装置付き(GR付)で、方向性のものか | 設備の図面、機器の銘板、SOG制御装置の型式 |
| SOG制御装置と区分開閉器を、いつから使っているか | 工事の記録や竣工時の書類(銘板の製造年は参考)。日本電機工業会の更新の目安は、屋外用の区分開閉器が使い始めてから10年(または定格の電流での開閉200回)、SOG制御装置が使い始めてから10年です。ふつうの環境で点検しながら使った場合の目安で、法律で決まった期限ではありません |
| 点検で、SOGの不具合や錆、絶縁の低下を指摘されていないか | 年次点検の報告書 |
| 高圧ケーブルの種類と、いつ敷いたか。水の影響を受ける場所を通っていないか | ケーブルの表示や仕様書、工事の記録、地中の配管の経路 |
| 避雷器が付いているか、アースの状態はどうか | 設備の図面、アースの抵抗値の測定結果 |
| キュービクルに、小動物や雨水が入るすき間がないか | 外観点検の結果、扉・換気口・ケーブルの通り口の状態 |
点検と、点検結果にもとづく安全の判断は、電気主任技術者の仕事です。恒電社は工事会社として、指摘を受けた設備の現地確認、工事の範囲と停電時間のご提案、電力会社への申請、工事と工事後の試験を担当します。区分開閉器や高圧ケーブルの更新は電力会社との調整に時間がかかるため、点検で指摘を受けた段階で工事の時期を決めておくと、停電日を選びやすくなります。工事の手順と期間は、PAS・UGS交換工事の手順と流れを解説した記事で紹介しています。
高圧設備のどこまでが自社の責任か、工事をする会社と保安を担当する人をなぜ分けるのかは、高圧電気設備の保安と責任の線引きを解説した記事にまとめています。
まとめ
- 波及事故は、自社の受電設備の事故が電力会社の配電線に広がり、近くの建物まで停電させる事故です。起こしたときは、事故を知った時から24時間以内に可能な限り速やかに国へ第一報を入れ、知った日から30日以内に報告書を出します(原因が自然現象の事故は、報告書は要りません)。
- 令和6年度の国の統計では、工場やビルの受電設備などの波及事故193件のうち、事故が起きた場所はケーブルが112件、PASが34件でした。近くの建物まで広がった理由は、区分開閉器が動かなかった(83件)と、付いていなかった(55件)で約7割を占めます。
- 波及事故を起こすと、近くの建物も停電し、近隣の事業者などから損害賠償を求められるケースもあります。
- 恒電社の施工事例では、PASの新設、PASとSOG制御装置の更新、高圧ケーブルの更新、UGSからUASへの取り換え、避雷器用のアース棒の新設などを行っています。工事の時期と範囲は、電気主任技術者の点検結果をもとに決めます。
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区分開閉器の仕組みと交換時期、地中線用の区分開閉器、高圧ケーブルの劣化は、次の記事で詳しく紹介しています。
古い建物で区分開閉器が付いていない、点検報告書でSOGの不具合やケーブルの絶縁の低下を指摘された、という段階でもご相談いただけます。現地で電気の引込の状況と機器の年数を確認し、電気主任技術者の点検結果を踏まえて、工事の範囲と停電日の候補をご提案します。
この記事を書いた人
蕨川 真央


